Source: Nikkei Online, 2025年1月30日 11:20
中国の新興企業DeepSeek(ディープシーク)が開発した安価で高性能な人工知能(AI)モデルが注目を集めている。米国製をしのぐ性能で10分の1以下の費用でつくったとしており、その影響などについて議論も広がる。スタートアップ情報サイト「36Kr」は2024年7月にディープシーク創業者の梁文鋒氏にインタビューした。当時のインタビュー記事を日本語で掲載する。主な一問一答は以下の通り。
――(24年5月に発表した大規模言語モデルの)「ディープシークV2」が米シリコンバレーに衝撃を与えました。なぜだと考えますか?
「米国では、日々大量のイノベーションがごく普通に生まれている。その中で、ディープシークV2はとりたてて特別な存在ではない。彼らが驚いたのは、これが中国企業の手によって生まれたことだ。これまで追随するばかりだった中国企業が、今回はイノベーターとしてそのフィールドに参入したからだと思う」
――(ディープシークは)生み出したイノベーションをオープンソースとして公開しています。他社に流用されないでしょうか。どのように自社の競争優位性を形成していくのでしょうか。
「常識を打ち破る革新的な技術の前では、クローズドな環境で守られた競争優位性は一時的なものにすぎない。米オープンAIは今ソースコードを非公開にしたが、競合他社の追い上げを阻むことはできていない。我々はこうしたプロセスの中で成長し、多くのノウハウを蓄積することで、イノベーションを生み出せる組織や文化を形成していく。これこそが当社の強みと言える」
――AIモデルを開発する中国企業の多くが商業化などで模索を続けるなか、ディープシークがまず基礎研究に専念することにしたのはなぜですか。
「それは今、世界的なイノベーションの流れに乗ることが何よりも重要だと考えているからだ。中国企業はこれまで、誰かが発明した革新技術を応用して速やかに商品開発し、もうけを出すことを得意としていた。しかしこれだけが進むべき道だと考えてはいけない。我々の原点は短期的な利益を追求するのではなく、テクノロジーの最前線に立ってエコシステム全体の成長を推進することだ」
――米国は「0から1」へと新たな技術を生み出すことに強みがあり、中国は技術を製品やサービスに応用して「1から10」にするスキルが優れていると言われます。
「中国はいつまでも他者の功績に便乗するのではなく、経済成長に伴って徐々にイノベーションに貢献する側に回らなければならない。過去30年以上にわたるIT(情報技術)化の波の中で、中国はイノベーションに身を投じるよりも、お金もうけに走ってきた。イノベーションは単なる(事業のために推進する)ビジネスドリブンによるものだけではなく、好奇心や創造意欲から生まれるものでもある」
――AIモデルの開発では、単に先端技術を持っているだけで絶対的な優位性を築けるわけではありません。今、ディープシークが追求したいものはいったい何ですか。
「我々は、中国のAI技術がいつまでも追随する立場にいるわけではないと考えている。よく『中国のAIは米国に1〜2年遅れている』と言われるが、2国間にある本質的なギャップは『オリジナル』と『模倣』という違いにある」
「米半導体大手のエヌビディアが今の地位を確立できたのは、単なる一企業の努力というより、西洋の技術コミュニティーや産業全体の努力が結実したからだ。中国のAIもこのようなエコシステムの形成が不可欠だ。中国で国産チップの開発がなかなか進まないのも、技術コミュニティーのサポートが不足しており、最新の情報が手に入らないからだ。だからこそ、中国でテクノロジーの最前線に立つ人が必要なのだ」
――資金調達の予定はありますか。親会社がディープシークの分離上場を計画していると報じたメディアもありました。
「短期的には資金調達の予定はない。我々にとっては、資金よりも米国による高性能チップの禁輸措置のほうが大きな問題だ」
――ディープシークは「桁外れの天才技術者たち」を雇っているとの声もあります。
「桁外れの天才技術者というわけではない。メンバーは中国国内のトップ大学(編集部注:北京大学・清華大学が多い)の新卒生のほか、博士後期課程の院生や卒業して間もない若者ばかりだ」
・「36Kr ジャパン」のサイトはこちら(https://36kr.jp/)
・中国語原文はこちら(https://36kr.com/p/2872793466982535)