OpenAI、高額「GPT-4.5」1カ月半で廃止 
Googleの攻勢で価格競争へ

Nikkei Online, 2025年5月14日 5:00


生成AI(人工知能)を取り巻く状況が急展開した。米オープンAIが2025年4月14日(米国時間)、低価格モデルである「GPT-4.1」をリリースし、1カ月半前にリリースしたばかりの高額モデル「GPT-4.5」を廃止すると発表したのだ。

オープンAIがGPT-4.5のプレビュー版をリリースしたのは25年2月27日(同)のこと。アプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)経由で利用する場合の料金は、100万トークン入力につき75ドルだった。従来バージョンである「GPT-4o」の同2.5ドルに比べると大幅な値上げだった。

それに対して同社が4月14日にリリースしたGPT-4.1は、多くのベンチマーク成績でGPT-4.5を上回るのに対して、100万トークン入力当たりの料金は2ドルである。従来バージョンであるGPT-4oと比べても安い。

安くて高性能なGPT-4.1をリリースすることから、オープンAIはGPT-4.5プレビュー版の提供を廃止するとも述べている。提供する大規模言語モデル(LLM)のバージョンが若返る異例の展開となった。

オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)は25年2月12日(同)にX(旧ツイッター)への投稿でLLMのロードマップを発表し、同社が今後リリースするLLMにおいては、高額プランほど「賢い」モデルが利用可能になると予告していた。またその直後に発表したGPT-4.5が極端な高額モデルだったことから、筆者も25年3月21日に日経クロステックに公開した記事で「25年のLLMは値上げ傾向にある」と説明していた。それが反転した。

グーグルが低価格攻勢

オープンAIが急な方向転換を強いられた原因は、米グーグルが25年3月25日(同)に発表した「Gemini(ジェミニ)2.5 Pro」だ。グーグルのジェミニ2.5 Proは、多くのベンチマーク成績でオープンAIのGPT-4.5を上回るのに対して、100万トークン当たりの料金は1.25ドル(20万トークン以下)または2.5ドル(20万トークン超)と安かったのだ。

さらにグーグルのスンダー・ピチャイCEOは25年4月9日(同)に開催した開発者イベント「グーグル・クラウド・ネクスト」の基調講演で、低価格モデルの「ジェミニ2.5 Flash」を発表。17日(同)からプレビュー版の提供を開始した。

グーグルの機械学習・システム&クラウドAI担当バイスプレジデントであるアミン・バダット氏はグーグル・クラウド・ネクストの基調講演で、「1ドル当たりのインテリジェンス」では同社の「ジェミニ2.0 Flash」はオープンAIのGPT-4oに比べて24倍、中国ディープシークの「ディープシークR1」に比べて5倍、それぞれ優れていると主張した。

こうしたグーグルの低価格攻勢を受けて、オープンAIも方向転換をしたと考えられる。

推論強化モデルの価格も下がり始めた

オープンAIは25年4月16日(同)に、新しい推論強化モデルである「オープンAI o3」と「オープンAI o4-mini」も発表している。両モデルの発表リリースからは、推論強化モデルの性能向上要因に関する従来の主張からの変化も見て取れる。

オープンAIは今回、o3やo4-miniが優れた性能を発揮する要因として、開発時に行った「強化学習」の量を増やしたことを挙げた。その上で、開発時の強化学習を増やすほどLLMが賢くなる「スケーリング則」が働くと主張したのだ。

推論強化モデルに関しては従来、推論時に投入する計算量を増やすほど出力結果が賢くなる「テストタイムスケーリング」が働くとの主張だった。その考えに基づきオープンAIは推論強化モデルの料金体系を、推論時に投入するコスト別に整備してきた。

例えば従来モデルの「オープンAI o1」シリーズの場合、通常版の「o1」の料金は100万トークン入力当たり15ドルであるのに対して、推論により計算力を投じる「o1-pro」は同150ドルだった。それに対して今回発表したo3の料金は同10ドル、o4-miniは同1.1ドルである。

今回発表したo3とo4-miniの料金はo1よりも安価だが、推論強化モデルとしての賢さは安価なo3やo4-miniが高価なo1やo1-proを上回る。「より高額な費用を支払った方がより賢いAIが利用できる」という構図が崩れたのだ。

価格競争力の源泉は「グーグル製AIインフラ」

グーグルのバダット氏は同社が賢いLLMを安価に提供できる理由として、同社がAIチップの「TPU」を含め、AIスーパーコンピューターを自社で開発していることを挙げた。グーグルの価格競争力の源泉が自社製AIインフラにあるのだとしたら、AIインフラを他社に依存するオープンAIなどは苦しい立場にあることになる。

グーグルが低価格攻勢を仕掛け、オープンAIがそれへの対応を迫られている中、スタートアップの米アンソロピックは25年4月10日(同)、月額100〜200ドルの新料金プランである「Max」を発表した。アンソロピックは従来、月額18ドル(年払いの場合)である「Pro」プランのみを提供していた。スタートアップは今後、苦戦を強いられそうだ。

(日経BP AI・データラボ 中田敦)

[日経クロステック 2025年4月18日付の記事を再構成]

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