Nikkei Online, 2025年8月6日 5:00
コールセンターの人工知能(AI)活用が一段と進む。大手のベルシステム24ホールディングス(HD)はAIが有人のオペレーターのように通話応対する技術を開発し、2026年にサービスを始める。応対の完全自動化で人手は従来から5割減る見通し。労働集約型のコールセンターの事業モデルが転換点を迎え、AIで収集したデータの活用が焦点になる。
7月、東京都品川区にある衛星放送「スカパー!」のコールセンター。電話に応対するオペレーターの横にあるパソコンでは、単語の関係性を線でつないだグラフが自動生成されていた。
このコールセンターはベルシステム24HDが業務受託している。スカパー!の顧客から寄せられる月約10万件の通話データから、AIオペレーターの頭脳となる「ナレッジベース」を構築する実証実験を進行中だ。
新システムでは検索拡張生成(RAG)と呼ばれる技術を使う。生成AIが情報同士の類似性や関連性を考慮して、自動応答に必要なデータを検索する。これに基づいて適切な回答を生成し、AIオペレーターが顧客と自然にやりとりできるようにする。
正しく回答できる割合は95%以上を目指す。「ゲームの画面が突然、真っ黒になり動かなくなった。原因がわからない」といった複雑な質問にも適切に対応できる。ベルシステム24HDは日本マイクロソフトなど複数のシステム開発会社と協業しており、26年にサービスを始める予定だ。
コールセンターの従来の自動応対は飲食店の予約など簡易なものにとどまっていた。ただ生成AIの登場以降、技術が急速に進化している。
ベルシステム24HDは現在、国内で約3万人の契約社員を抱える。AIオペレーターを導入すれば、コールセンター単位の人手は平均で5割減らせる見通し。AIが回答する内容の管理などの有人対応は残るが、顧客とやりとりするオペレーターの人手はゼロにすることも可能だ。
AIオペレーターはコールセンターを自社運営している企業にも外販する計画だ。年間500億円の売上高を目指す。「人手を介さずに顧客応対するプロセスを構築できれば、コールセンターは革新的に変わる」。ベルシステム24HDの梶原浩代表はこう強調する。
矢野経済研究所(東京・中野)によると、国内のコールセンターの市場規模は26年度に1兆909億円の見込み。23年度から横ばいが続き、頭打ち感がにじむ。ウェブ対応などのニーズは増えるが、従来型の電話応対のニーズは低下傾向だ。AI活用を通じた、従来の労働集約型の事業モデルからの脱却が急務だ。
競合他社も技術開発を急ぐ。国内最大手のトランスコスモスは5月、コールセンターでAIが電話やチャットで顧客と自動でやりとりする「AIエージェント」を活用すると発表した。問い合わせの目的に応じて最適な解決策を提案し、必要に応じてオペレーターに誘導する。
顧客対応システムを手がけるモビルスと共同設立した新会社が開発や運用を担う。まずインフラや製造業向けに開発し、流通や金融、通信など対応する業界や業務を増やしていく。26年3月までにトランスコスモスが受託した50社のコールセンターで導入を目指す。
コールセンターはこれまで、人件費はかさむが利益を生まない「コストセンター」とされてきた。ただ、収集した膨大な情報をAIで分析し、収益につなげようとの取り組みも進む。
KDDI傘下でコールセンター大手のアルティウスリンクは生成AIを活用し、応対内容から商品やサービスの改善要望を抽出するサービスを26年3月までに開発する計画だ。導入企業は消費者の潜在ニーズを分析し、販促やサービスの改良に生かすことができる。
4月から実証実験を始めたSBI損害保険の自動車事故受付センターでは、月間約6000件の電話から商品・サービスの改善要望を抽出する。