OpenAI、ChatGPT開始3年で企業価値25倍
 赤字でも220兆円投資

Nikkei Online, 2025年11月28日 5:00

サム・アルトマンCEO=NIKKEI montage/ロイター

【シリコンバレー=山田遼太郎】米オープンAIが対話型AI(人工知能)「Chat(チャット)GPT」を公開して30日で3年を迎える。利用者は8億人、企業価値は公開前の25倍の約78兆円と世界最大のスタートアップに成長した。投資回収の明確な道筋を描けぬまま、2033年までに売上高の70倍にあたる約220兆円と空前の投資で賭けに出る。

企業評価額はトヨタやネットフリックス超え

「AIが科学を進歩させるのはもはや遠い未来ではない。難病の治療などに役立つAIをできる限り早く世界に届けたい」。サム・アルトマン最高経営責任者(CEO)は11月にこう述べ、AIの進化を早めるために投資を加速すると説明した。

オープンAIは2015年に人間並みに賢い「AGI(汎用人工知能)」の実現を目指す純粋な研究機関として発足した。ロボットやゲームなど幅広くAIの使い道を探り、話し言葉を操り文章を生成する「大規模言語モデル(LLM)」の進化に着目した。これを実験的に世に問うため22年11月、チャットGPTを公開した。

創業期のオープンAIは安全なAI開発を目指す研究者集団だった(2016年10月、グレッグ・ブロックマン社長のブログから)

その後の成長は驚異的だ。わずか3年で無名の組織から世界最大のスタートアップに変貌した。チャットGPTは歴代ネットサービスで最速のペースで利用者が増え、世界で毎週8億人が使う。企業価値は5000億ドル(約78兆円)と、上場企業の時価総額と比べると日本で最大のトヨタ自動車や米動画配信のネットフリックスをも上回る。


消費者向けAIサービスの代名詞となった。日本では「チャッピー」の愛称が付き、若者の相談相手となるなど利用が進んだ。アルトマン氏は年換算売上高が年内に200億ドルに届くと話す。

無料会員が95%、大幅な赤字続く

だが経営は大幅な赤字が続く。月20ドルが中心の有料サービスを提供する一方で利用者の95%を無料会員が占める。AIの性能を高めるには半導体やクラウドを大量に使う必要があり、研究開発への投資がかさむ。25年はフリーキャッシュフロー(純現金収支)が85億ドルの赤字と見込まれている。

米巨大テックがこぞって参戦する開発競争を勝ち抜くため、今後8年で1兆4000億ドル(約220兆円)を開発インフラのデータセンターなどに投資すると打ち出した。足元の売上高の70倍と巨額だ。手元資金が乏しい新興企業でありながら、年平均でみると米グーグルの今期設備投資のおよそ2倍を投じる計算になる。

米南部テキサス州で建設中のオープンAIのデータセンター=ロイター

資金不足を補うため提携先を広げた。19年から支援を受ける米マイクロソフトに加え、ソフトバンクグループ(SBG)や米半導体大手エヌビディアと関係を深めた。オープンAIとエヌビディアの間を多額の資金が循環する取引の構図はAIへの過剰投資の懸念を招いている。

アルトマン氏は「収益化は心配ごとの10番目にも入っていない」と話す。その一方で10月、オープンAIの財務状況に懐疑的な投資家に対し「痛い目を見ればいい」と挑発的な発言をした。足元でグーグルからAIの性能で追い上げられ、アルトマン氏には投資回収の道筋を示すプレッシャーが強まっている。

商業主義に傾倒、著作権侵害や依存が問題に

オープンAIはグーグルへの対抗から利潤を追わないNPOとして始まり、組織再編を経て通常のテック企業に近い経営体制になった。商業主義への傾倒により、AI普及に伴う弊害が目立っている。

AIへの精神的依存が社会問題になり、オープンAIはチャットGPTとの会話を原因とする5件の自殺で提訴を受けている。動画AIのアプリ「Sora(ソラ)」では著作権を軽視したいたずら動画を氾濫させる企業姿勢が問題視された。

「AGIの恩恵を全人類にもたらす」。崇高な使命と利他の精神に共感して集まったAI研究者の多くはすでにオープンAIを去った。アルトマン氏は10年以内に人知をしのぐ「超知能」の到来を見据える。雇用などAIの影響が社会に広がるなか、オープンAIは理念に忠実でいられるかが問われている。


揺らぐ優位性、グーグルやメタが総力挙げ対抗

オープンAIは10月に営利企業を中核とする組織再編を終え、マイクロソフトが27%、NPOが26%、SBGが約11%とする資本構成が固まった。10月には複数の米メディアが、早ければ27年の新規株式公開(IPO)を目指していると伝えた。上場時の時価総額は1兆ドル規模を想定しているという。

高い評価額はオープンAIの成長持続が前提だ。ただ足元で生成AIのリーダー企業としての地位に揺らぎが見え始めた。米調査会社アップトピアの推計では、米国のユーザーの平均1日あたり使用時間は7月をピークに減少に転じ、11月中旬時点で20分と7分ほど短くなった。

競合の追い上げは激しさを増す。グーグルが18日に発表した新型のAI「Gemini(ジェミニ)3」はオープンAIの最新モデル「GPT-5.1」を超える性能を実現したとの見方が広がる。収益性と利用者基盤を持つグーグルが巻き返し、対話AIの普及で先行逃げ切りを図るオープンAIのシナリオに綻びがでてきた。

プログラミングが強みの「クロード」を開発する米アンソロピックは企業向けのAI提供に特化し、オープンAIを収益性で上回る。アルトマン氏に対抗意識を燃やすイーロン・マスク氏の米xAI(エックスエーアイ)やマーク・ザッカーバーグ氏の米メタも投資拡大や人材引き抜きで猛追する。

お金をかけるほどAIの性能が高まるという見立てに基づき、世界のAIデータセンター投資額は27年にも年間1兆ドルに迫る。AIは鉄道やインターネットといった過去の産業ブームに匹敵する規模となりつつある。オープンAIが未曽有の規模の投資を回収しつつ、重みを増す社会責任に応えるハードルは高まっている。

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