Nikkei Online, 2020/12/2 5:12更新
携帯各社はサービスの乗り換えに対して
手数料など一定の費用負担を利用者に求めている
携帯電話の乗り換えにかかる費用が高額だとして、菅義偉政権が大手携帯会社への批判を強めている。特に問題視するのが自社の主力ブランドから格安ブランドへの移行にかかる手数料だ。割安サービスの利用を妨げているとする政権の意をくみ、NTTドコモは来春に始める新サービスでは同手数料をとらない。KDDIも撤廃も視野に見直しの検討に入った。
「同じ事業者の中の別のプランに移るために、なんでこれだけ多くの手続きと手数料を取るんだ」。武田良太総務相は11月27日の閣議後会見で携帯大手への怒りを爆発させた。同じグループ内の割安サービスに切り替える費用が高額なことを問題視したからだ。
携帯各社はサービスの乗り換えに対して手数料など一定の費用負担を利用者に求めている。KDDIの場合、最大で1万5500円がかかる。契約解除料9500円に加えて、転出手数料の3000円と新規の契約事務手数料3000円を利用者は払う必要がある。乗り換え先がNTTドコモでもソフトバンクでも、自社の「UQモバイル」を含めた新興の格安サービスでも負担額は同じだ。
国は競争を促すために2019年10月から契約解除料を1000円に引き下げるよう電気通信事業法を改正したが、それ以前の契約で携帯を使う人は対象外だ。このため他社にサービスを乗り換える人は多くない。乗り換え費用は顧客を抱え込みたい携帯各社の重要な戦略ツールとなっていた。
武田総務相が批判を強めたのは、このうち自社グループ内での切り替え分だ。
KDDIとソフトバンクはそれぞれ10月、傘下のサブブランド「UQモバイル」「ワイモバイル」で、20ギガ(ギガは10億)バイトで通話料を含め税込み月5000円以下となる割安な新プランを公表した。両社はサブから主力ブランドへの移行は各種割引を適用し、無料としている。一方、主力からサブへの移行には、他社への乗り換え費用と同じ最大1万5500円を課した。
これではサブブランドで料金引き下げをうたったところで使う人は限られる。総務相がサブブランドを「見かけ倒し」と称したのは移行の難しさをかぎとったからだ。
この手数料体系に一石を投じたのが業界最大手のNTTドコモだ。同社は来春をめどに廉価な携帯電話の新ブランドサービスを立ち上げるが、ユーザーが主力ブランドから移行する場合は手数料をとらない方針だ。現在のドコモのユーザーは、費用負担なくして廉価なサービスを選択することができる。
ドコモが移行を費用なしでできるようにすることで「サービスの切り替えにはコストがかかる」としてきた他社の言い分は通用しにくくなってきた。KDDIは政府の批判を受け「見直しも含め前向きに検討していきたい」とコメントする。費用の撤廃も視野に入れるが、どの手数料をどの程度下げるのかは今後詰める。
政治という外圧をきっかけに、携帯大手は手数料ビジネスの刷新を迫られる可能性が高い。