Nikkei Online, 2024年11月2日 11:00
与党が大敗した衆院選は特に若い世代の投票行動が一転した。出口調査のデータを前回2021年と比べて分析すると、自民党に投票する傾向があった若年層のほうがシニア層より新たな選択肢に流れた実態が浮かぶ。比例代表で与党から逃げた票が野党勢力に広く分散した背景になった。
今回の衆院選で際立つのは比例代表の得票数で上位5党以外が2割を超えたことだ。現行の小選挙区比例代表並立制になった1996年以降初めてで、投票先の分散を象徴する。自民、立憲民主両党以外の第3党以下が全体の半数を上回った。
国民民主党やれいわ新選組が票を集め、参政党や日本保守党が初めて衆院選で議席を得るなど新興勢力が伸長した。
変動をもたらした原動力に若い世代の投票行動の変化がある。共同通信社の出口調査のデータを用いて30代以下、60代以上といった特定の年齢層だけで選挙したらどうなるか試算し、年代別の特徴を探った。
出口調査の年代別の回答数を集約した。全国289の小選挙区はその世代が最も投票先にあげた候補が当選者になると位置づけた。比例代表の議席数は投票先の回答数に即して全11ブロック別に実際の選挙と同様の方式で割り振った。
30代以下だけで試算した「若年層だけの選挙」の結果は実際の選挙にも増して自民党に逆風が吹いた。
全465議席のうち自公は3割強の149.5議席で、2021年衆院選の出口調査で同様に試算した316.5議席のおよそ半分になった。東京都の30小選挙区をみると自公はわずか5勝で、実際の選挙結果の12勝より厳しい結果がでた。
野党は立民が21年衆院選の試算の65.5から136.5、国民民主が16から76、れいわが7から19へと伸びる計算になる。実際の選挙結果で議席を減らした日本維新の会も45から57に増える。参政党も6議席を得る。
同じ手法で60代以上だけの試算をだすと変動が比較的少ない全く違う結果がでる。
自公は21年試算の246議席から209議席へと減るものの、減少幅は15%ほどと若年層と比べ小さい。その減少分は144から177.5に増える立民にほぼまわる計算だ。国民民主は6から13.5、れいわは0から5で若年層のような伸びはみられない。
40〜50代は自民党の減少や立民や国民民主の増加などで若年層とシニア層の中間の結果になった。
自民党は第2次安倍政権以降の選挙で若い世代ほど強かった。21年の前回衆院選の出口調査による試算でも若年層だけなら295.5で、シニア層だけの223を上回る。今回の衆院選はこの構図が一気に崩れ、若年層ほど自民党から離反した。
シニア層の受け皿が立民軸なのと比べ、若年層は国民民主やれいわ、参政党を選ぶ傾向があるのも特徴的だ。
人口減少が進む状況で若い世代は税制や社会保障の改革が進まなければ将来負担が減らない。石破茂政権に不信を抱く若年層は税財政政策などで相対的に政権との差が少ない立民以外の選択肢に向かう傾向があると考えられる。
日本の政治は政治不信が高まると新興政党が続々立ち上がり、構図が変わってきた。
1980年代末のリクルート事件後の政治改革の動きを受けた新党ブームは「55年体制」の終わりに結びついた。21世紀に入ると2009年の自民党、12年の民主党の大敗という与党への失望と相まって「第三極」が一定の勢力を得た。
欧州は近年、ドイツの地方選での極右躍進など新興勢力が若年層の支持を背景に伸びる例が目立つ。連立や選挙協力など政治の枠組みも左右した例もある。今回の衆院選で表れた若年層の変化には日本の政治構図を塗り替える可能性が潜む。
衆院選の出口調査データを使い、年代と性別ごとに選挙をした場合の議席数を試算した結果は以下の通り。
(宮坂正太郎、金子貴大、グラフィックス 池田奈央)