「25年度も賃上げ」経営者20人に聞く キリンHDや日鉄

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Nikkei Online, 2025年1月1日 2:00

主要企業の経営者20人に2025年度の景気を聞いたところ、実質GDP(国内総生産)の伸びは平均で1.1%だった。実質賃金が安定的にプラスになり、個人消費が上向くとの見方が多い。インフレ率の予想は平均で2.0%となった。24年度と比べ、伸び率は鈍化すると見込む。

セブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長は「インバウンド消費、所得上昇の影響による個人消費の回復」を期待する。日本郵船の曽我貴也社長は「エネルギーなどの物価上昇や長引く円安を加味すると実質成長率は1.1%程度」とみる。

日本にインフレが根付く可能性について回答した17社の平均が63%だった。日本生命保険の清水博社長は「平均的に1%台の物価上昇が定着し、デフレからは脱却する可能性が高い」と分析する。

24年の春季労使交渉(春闘)では33年ぶりに5%台と高い賃上げ率となった。25年の春闘については回答した17社中、16社が「24年並みの賃上げ率」となると見込む。

サントリーホールディングスの新浪剛史社長は「雇用の7割を支える中小企業の賃金が上がるように最低賃金の引き上げと、労務費の価格転嫁率の上昇に向けた踏み込んだ対応が必要」と指摘する。

節約志向が残り、消費が力強さを欠いた24年だが、25年は実質賃金が改善し、消費が促進されるとの見方は多い。三井住友フィナンシャルグループの中島達社長は「所得環境が一段と改善し、個人消費が回復。小売りや外食などのサービスが活況を呈する」と予想する。

JR東日本の喜勢陽一社長は「インバウンド(訪日外国人)の需要が好調に推移することや、民間投資の増加などで内需主導で緩やかな成長を続ける」と見込む。

企業が取り組むべき25年のテーマを聞いたところ、野村ホールディングスの奥田健太郎グループCEOは「研究開発など成長投資への取り組みが重要。人的投資のGDPに占める割合は日本が0.3%程度に対し米国は0.9%前後と3倍の格差がある」と指摘した。

みずほフィナンシャルグループの木原正裕社長は「コストカット一辺倒ではなく、商品・サービスの付加価値向上により価格転嫁可能なビジネスモデルへとかじを切る必要がある」と指摘した。

必要な経済政策では、三井不動産の植田俊社長が「都市の魅力を高め、海外から企業や人材を呼び込むことが重要。高度人材の誘致においては国際化に対応したビジネス環境や生活インフラの整備が必須」と回答した。

為替レートの予想は年後半にかけて円高方向に向かうとの見方が多かった。平均は6月末に1ドル=147円、12月末に同144円だった。三菱商事の中西勝也社長は「米国の政策金利引き下げ及び日本の政策金利引き上げに伴い、米大統領選を経た足元のドル高・円安の動きは一服する」と見込む。

政府・日銀に取り組んでほしい政策を聞いたところ、最も多かったのが「成長戦略の加速」で18人が選んだ。次いで多かったのが17人が回答した「少子化対策」だった。

JTBの山北栄二郎社長は「地方への企業誘致支援や子育て支援策の拡充」を必要な政策にあげた。デジタル技術や再生可能エネルギーの利用促進も課題になる。三菱重工業の泉沢清次社長は「成長投資を促す税制・財政上の支援強化、社会保障制度の改革を含めた財政運営の安定化が必要」と指摘した。

リスクは海外経済

今回実施した経営者アンケートでは、国内景気は回復基調を保つとの見方が続く一方で、海外経済の不透明さをリスクとして挙げる声が目立った。トランプ氏の米大統領就任後の米中対立激化や金利政策の影響、ロシアによるウクライナ侵略の行方などが懸念点として挙がった。
保護主義的な政策を掲げるトランプ氏が20日、米大統領に就任する。アンケートでリスクとして最も多く挙がったのが、就任後の他国への関税引き上げによる輸出入への影響だ。三菱UFJフィナンシャル・グループの亀澤宏規社長は「特に中国経済に対して大きな下押し圧力となり、世界経済全体の減速をもたらすリスクがある」とした。

トランプ氏の動向から目が離せない=AP

日本の製造業への影響も避けられない。日立製作所の小島啓二社長は「自動車や一般機械の日本からの輸出や、メキシコから米国への輸出などに悪影響が及ぶ」とみる。日本製鉄の今井正社長は「米国向け輸出が減少し、安価な中国製品がグローバル市場にあふれることによる国際貿易の混乱」を懸念する。

米国の金融政策が日本経済に与える影響も読みづらくなる。第一生命ホールディングスの菊田徹也社長は「保護主義政策が米国のインフレ圧力となる場合、利下げの遅れから円安長期化につながる可能性もある」と指摘した。

トランプ大統領就任後の米中対立が景気にマイナスの影響を与えるとの見方は多い。アンケートで2025年の成長率の予測を集計したところ、米国が平均2.1%、中国が同4.3%だった。24年10月に国際通貨基金(IMF)が公表した24年見通しは米国2.8%、中国4.8%で、予測はいずれも下回る。

地政学リスクも世界経済の足かせとなる。NTTの島田明社長は「ウクライナ侵略や中東地域の政治的不安定が、エネルギーを含む1次産品価格の高騰を引き起こす可能性がある」との見方だ。
住友化学の岩田圭一社長は「日本経済の内部要因よりも海外の影響が懸念点だ」とした上で「米国の経済・外交政策の転換、中国景気の停滞、中東地域をはじめとする紛争の緊迫化」などを注視する必要があるとした。

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