「1食」のコメ価格、パンの2倍 小麦製品の割安さに注目

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Nikkei Online, 2025年4月15日 5:00

パンはコメと比べて価格の優位性が目立つ

コメに対してパンの割安感が強まっている。米中貿易摩擦などの影響で世界の穀物価格が下落し、パンの原料になる小麦の国内の輸入価格は3年半ぶりの安値になった。コメは政府が備蓄米の追加放出を決めたものの、店頭価格は依然として高止まりしている。「1食」あたりの価格はコメがパンの2倍になり、麺類を含めた小麦製品への家計の関心が高まっている。

国内で食用に使う小麦の8〜9割程度が米国やカナダなどからの輸入品だ。政府が輸入した小麦を製粉業者などに売り渡す価格は、前期の国際相場や海上運賃、為替などを基に半年ごとに算出する。

農林水産省によると、政府の売り渡し価格は4月から1トンあたり平均6万3570円と、24年10月〜25年3月に比べて4.6%安くなった。4期連続の引き下げで、21年10月〜22年3月以来3年半ぶりの低水準になった。

背景にあるのが、小麦の国際相場の下落だ。指標となる米シカゴ商品取引所の小麦の先物価格(中心限月)は3月下旬、一時1ブッシェル5.1ドル台と24年7月以来の安値を付け、4月11日の終値も5.5ドル台だった。

米中貿易摩擦の影響が大きい。中国が輸入する大豆のうち、米国産は2割を占める。報復関税によって米国の中国向けの大豆輸出が滞り、需給が緩むとの警戒からシカゴ先物は7日に9.6ドル台と2月の高値から1ドル下がった。トウモロコシも供給増が見込まれ、穀物相場の下落基調が小麦に波及した。マーケットエッジの小菅努代表は「(大豆などに)価格が連動しやすい小麦が連れ安になっており、通商政策を受けた不安心理が改善しなければ上値は抑えられやすい」と指摘する。

ロシアの影響も見逃せない。米政府は3月25日、黒海での船舶の安全航行の確保でロシア・ウクライナ両国と合意したと発表した。世界の小麦輸出量に占めるロシア産の割合は約2割を占める。船舶の安全が確保されれば、ロシア産小麦を輸送する際の海上運賃などが下がり、国際相場に波及する可能性がある。

ニップンの服部秀城チーフグレインアナリストは「ロシアやウクライナ産の新穀(今年収穫分)の輸出が始まる7月ごろから実際に海上保険や運賃などが安くなれば、相場の下押し要因になる」とみる。

一方、コメ価格は上昇が目立つ。農林水産省によると、JAグループなどの集荷団体がコメ卸に販売する2月の相対取引価格は玄米60キログラムあたり2万6485円(全銘柄平均)と、比較可能な1990年以降で過去最高を更新した。

米穀安定供給確保支援機構(米穀機構、東京・中央)によると、3月時点の向こう3カ月のコメ価格見通し判断DI(動向指数、100に近づくほど高くなる)は55と、前月比ほぼ横ばいだった。需給見通し判断DIも73とほぼ横ばいで、先々も逼迫した状況が続くとの見方が多い。

パンとコメの価格差は無視できないほど広がっている。三菱総合研究所が総務省の小売物価統計調査を使って試算したデータによると、2月の東京都区部の食パン価格は6枚切り1枚(60グラム)32円と、ここ2年ほど30円前後で推移。4枚切り1枚(90グラム)は48円だった。

コシヒカリの茶わん1杯(精米65グラム)は27円高の57円と、ほぼ2倍になった。6枚切りパン1枚とコシヒカリの茶わん1杯の価格は24年春まで30円強で並んでいたが、その後はコメ価格が急上昇し、茶わん1杯がパン1枚の2倍になった。

パンや麺類など小麦製品が相対的に割安感が出てきたことで、食卓のメニューに変化が出始めた。市場調査会社のインテージ(東京・千代田)によると、東京や大阪などの1260世帯の夕食メニューを対象にパスタが登場した割合は2月に4%と、前年同月(3.5%)から上昇した。月間の登場率が前年を超える状態は半年以上続いている。

コメは夕食で使われることが多く依然として登場率は7割超だが、2月は微減だった。インテージの木地利光アナリストは「コメ高騰の影響で、主食をパスタで代替する需要が増えている。満腹感を得やすいミートソースやクリームソースの販売が特に伸びた」と話す。

政府は備蓄米を7月まで毎月放出する方針を決めた。コメ価格の抑制に注力するが、決定打にはなっていない状況だ。物価上昇で家計は生活防衛意識を高めており、できる限り支出を抑えようと食品価格に向ける目線は厳しくなっている。コメ価格の高止まりによる家計のコメ離れは続く可能性がある。

(高山智也)


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