護衛艦いずも、ドローン「探知できず」 警備の穴露呈

ドローンは護衛艦「いずも」に接近して撮影したとみられる(投稿された映像のスクリーンショット)

海上自衛隊の護衛艦「いずも」が外部のドローン(小型無人機)に撮影されたとみられる問題で、自衛隊が接近を探知できていなかった可能性が高いことがわかった。当時いずもは神奈川県の横須賀基地に停泊中で、防衛施設の警備の穴が指摘される。政府はドローンによる情報流出や攻撃への備えを急ぐ。

いずもを上空から撮影したとする映像は3月、中国の動画配信サービス「Bilibili(ビリビリ)」に投稿された。防衛省は9日、映像を分析した結果、実際に撮影された可能性が高いと公表した。

映像を撮影したと自称するX(旧ツイッター)のアカウントは15日時点で、ほかにも米海軍横須賀基地に停泊する原子力空母「ロナルド・レーガン」やイージス艦とみられる映像も公開している。

国が定めた重要施設の周辺は2016年に施行した小型無人機等飛行禁止法でドローンの無断飛行が禁止され、罰則もある。テロや情報収集の標的になりやすい首相官邸など国の重要施設、原子力発電所に加え、横須賀を含む自衛隊や在日米軍の基地も対象だ。

施設上空を「レッドゾーン」、おおむね半径300メートルの範囲を「イエローゾーン」と定める。施設上空は警護する自衛官の判断で強制着陸させられる。イエローゾーンも警察が退去などを命令でき、警察が近くにいない際は自衛官も対処できる。

これらの措置は事前に接近をつかんでいることが前提だ。政府は警備能力を知られる恐れから今回の事案で探知できていたか公表していないものの、取材によると基地侵入を把握できていた形跡がないという。

自衛隊は基地を警戒・監視する一方で外の動きまで把握していない。警察は常時基地周辺を監視する体制が整っていない。操縦者が基地の外で隠れてドローンを発進させた場合などに誰が責任を負うのか不明瞭な「グレーゾーン」もある。

防衛省は目視や音での確認のほか、レーダーや光学センサー、操縦の通信で使われる電波などをドローンの接近を捉える手段にあげるが、実際は技術的に難しい側面もある。

無人装備の仕組みに詳しい慶大の古谷知之教授は「高速型や小型ドローンはほとんど見つけることができない」と指摘する。小型なら鳥などと同様にレーダーなどで判別しづらく、高速で複雑に動けば継続して捉えられない。

防衛省は探知能力が高い機材の導入や警備の強化を検討し始めたものの、現在の技術で十分な備えを実現するのは容易ではない。

実際にロシアによるウクライナ侵略では双方とも対処できずに損害が出ている。ドローンはミサイルより低価格で民生品も多く、市販品に爆弾を搭載したり、レース用製品で高速侵入したりする例が報告された。

いずもを撮影したとみられるドローンも市場に流通する小型民生品だとの分析がある。軍事用に開発した無人機より性能で劣るものの、ミサイル攻撃のおとりに用いたり、複数機で敵をかく乱させたりと使い方次第で脅威になる。

いずもはヘリコプターが搭載でき、海自で最も大きい特に重要な護衛艦だ。20年代後半から最新鋭のステルス戦闘機「F35B」を搭載、運用する方針で、艦首の形状を四角形にする改修などを予定している。事実上の空母とみられることもある。

今回の映像には甲板をなめるように動いたような場面もある。仮に爆弾を搭載した小型ドローンが付近で爆発すれば、装甲が薄いレーダーなど運用に欠かせない箇所が損傷する恐れがある。「5〜6年は使えなくなりうる」(防衛省幹部)という。

ドローンの対処策として技術的には電波妨害で飛行させない手段もあり、自衛隊にも装備はある。ところがドローンの電波の周波数帯は無線通信などと重なる。常に妨害し続けるのは特に市街地付近で現実的ではなく、探知を前提にした運用でどこまで対応できるのか不透明だ。

日本にとってドローン防護が課題なのは基地や艦艇に限らない。例えば原発の平時の防護は自衛隊よりさらに警戒・監視する装備が手薄な警察や、電力会社などの事業者に委ねられている。急な攻撃に対応できないリスクがある。

諸外国は対策を進めている。米国防総省は21年に「小型無人機対処戦略」を策定した。米軍関連施設を守るため、ドローン攻撃の抑止、拒否、撃破を強化する統一方針を示した。

米国や英国は公開情報の収集・分析で未然に攻撃を防ごうと備えを急ぐ。日本の情報収集能力の強化も対策には欠かせない。


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