Nikkei Online, 2023年2月22日 11:00
福岡市地下鉄七隈線の天神南―博多間(1.4キロメートル)の延伸開業を3月27日に控え、さらなる地下鉄延伸を巡る議論が活発になっている。福岡空港から路線を延ばしてJR線に直通させる案は福岡県が2022年度に試算をし、それ以外にも様々な構想や要望などが浮上する。同時に、新型コロナウイルス禍の影響を受けた経営の改善も急務になっている。費用対効果をみながら都市交通の将来像を考える必要がある。
「地下鉄空港線をJRの方に延ばす構想があるようですよ」。「不動産会社の営業トーク」にとどまっていた話が進展したのは、21年のことだった。
動いたのは福岡県篠栗町や飯塚市など、JR九州福北ゆたか線の沿線自治体2市9町で組織する「福岡市地下鉄福岡空港駅・JR九州長者原駅接続促進期成会」だ。福岡空港駅が終点の空港線を延伸して福北ゆたか線に接続させることを要望し、県に事業性の試算を求めた。
飯塚市など県中部から同空港への鉄道アクセスは、遠回りする形で博多駅まで行き、そこから空港へ向かう必要がある。地下鉄延伸はアクセス向上と地域の活性化が狙いだ。
要望を受けた県は福岡空港駅と、福北ゆたか線の長者原駅か隣の原町駅(いずれも福岡県粕屋町)を結ぶルートについて試算を実施。公園やショッピングモールの近くに新駅を設けるか否かや運行本数など8パターンについて、2040年度に開業したと仮定してそこから40年間の累積収支を計算した。
県が公表した結果では、15〜23分の時間短縮効果はあるが、収支は150億〜1160億円の赤字が出るとした。ただ、県交通政策課の担当者は「試算は基礎的なもの。前提次第で結果も変わる」と含みを残す。同期成会メンバーの飯塚市も「試算の結果は厳しいが、より詳細な調査に向け会のなかで協議していく」と、あくまで実現を目指す姿勢だ。
福岡市内でも、地下鉄の延伸を巡る議論が再燃している。契機となったのが22年11月に実施された市長選だ。選挙期間中に市民から、七隈線の一方の終端である市西部の橋本駅と北に約3キロメートル離れた空港線の姪浜駅を結んでほしいという要望が出た。選挙後には博多駅まで延伸する七隈線をさらに延ばし、福岡空港国際線ターミナルと結ぶことを検討しているとの一部報道もあった。
地下鉄を巡っては、現在は貝塚駅(福岡市東区)で乗り換えが必要な箱崎線と西日本鉄道の貝塚線を直通運転させるという案が、これまで長らく議論されてきた。ただ、地下鉄と西鉄の車両の長さの違いなどもあり、結論が出る気配は見えない。1月に市の住宅都市局がまとめた資料でも「引き続き、将来的な直通運転化を視野に入れながら、利便性向上策などの検討に取り組む」との表現にとどまる。
延伸要望が相次ぐ福岡市地下鉄の路線を延ばせば、単純に収益も拡大するというわけではない。コロナ禍で地下鉄全体の利用が低迷しており、新規の大型投資には慎重な検討が必要になる。
福岡市地下鉄の単年度の損益は、20年度に6年ぶりの赤字に転落した。21年度以降は黒字に戻したが、23年度見通しで13億円にとどまる。七隈線延伸部分の償却費が増えることが一因で、コロナ禍前である19年度の5分の1にすぎない。
利用客数も戻らない。七隈線の延伸効果を含めても、23年度の1日あたり利用客数は40.9万人と、延伸やコロナ禍の前である19年度の8割台ににとどまる見込みだ。在宅勤務の浸透などから、22年度見通しから2万人しか上積みできないという。
地下鉄網の拡充を求める住民の声は、根強いものがある。高島宗一郎市長は地下鉄を含めた交通に関する基本計画を今任期中にまとめるとする。西南学院大学の近藤春生教授(財政論)は地下鉄の延伸について「できるだけ色眼鏡をかけずに、費用対効果を分析して決めるしかない」と指摘する。
(坂部能生)