全銀システム「障害ゼロ」偏重にもろさ、復旧対応後手に

システム障害について説明する全銀ネットの辻松雄理事長(中央)ら(18日、東京都千代田区)

銀行間送金システムで起きた障害で、運営する全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)は18日、利用者が負担した費用を各金融機関が補償すると発表した。障害の詳しい原因は発生から1週間以上が過ぎても調査中とした。50年間の安定稼働がトラブル予防偏重の姿勢を招き、障害時の復旧対応で後手に回るもろさにつながった。

障害は全国銀行データ通信システム(全銀システム)で10日朝に発生。2日間にわたり三菱UFJ銀行やりそな銀行など10の金融機関から他行向けの振り込みができなくなった。送金で255万件、受け取りも含めると延べ500万件超の取引が遅れた。

18日に記者会見した全銀ネットの辻松雄理事長は「決済システムの信頼性を揺るがす大きな問題で、おわびします」と陳謝した。

障害の要因は全銀システムと接続するため、各金融機関向けに2台ずつ備えた中継コンピューター(RC)で起きたエラーだ。関係者によるとプログラムの設定にミスがあり、銀行間の手数料をチェックする機能が正常に動かなかった可能性があるという。

発生から1週間以上たっても障害の詳しい原因は不明のままだ。「詳細を説明できる状況ではない」「真因をベンダー(NTTデータ)と突き止めたい」――。全銀ネットは会見で、こうした発言を繰り返した。

全銀ネットとシステムを構築するNTTデータは、今月7〜9日の3連休で中継コンピューターの更新作業を実施した。今回の更新では一度に処理できる情報量(ビット)を32ビットから64ビットに増やした。それに合わせて容量(メモリー)も増やす必要があるが何らかの原因で不足した可能性がある。全銀ネットの小林健一業務部長は「検証の重要な点になる」と述べた。

事前にテストを実施したが、システムの運用に携わる銀行の担当者は「移行に必要なデータが足りなかったのではないか」と指摘する。会見で辻氏は「(本番環境に近い)すべてのデータを使えば障害を発見できたかもしれない」と述べ、想定が甘かったことを認めた。

全銀システムはバックアップのため、東京と大阪でシステムを二重化している。RCは2台ずつ運用をしているが、耐用年数が同じなので同時に更新したという。小林氏は「片方ずつ移行すれば(障害を)防げた可能性がある」と話し、判断の妥当性を検証するとした。

事後の対応にも課題を残した。10日朝に障害が起きてから情報発信が二転三転。10日中に振り込み処理を完了できるとしていた当初の発表文は、訂正の通知なしに取り下げられた。遅れた送金の手続きは金融機関が磁気テープを直接持ち込むなどの代替手段で11日中に終えるとしていたが、実際は12日午前まで持ち越された。

根本的な問題の解決にも至っていない。エラーの原因となった銀行間の手数料に関するプログラムの一部を飛ばす応急措置がなお続く。手数料が適正かチェックする作業が全銀システムを使う加盟行にのしかかる。正常化のめどは現時点でたっていない。

全銀システムは資金決済の中核インフラで、1日あたりの処理額は平均14兆円程度。今回の障害で企業間の決済や児童手当の受け取り、学費の納入など広範囲に影響が出た。顧客への影響が出る障害は1973年に稼働してから初めてだ。

金融庁によると、金融機関のシステム障害は2022年度に約1900件起きている。障害を完全に防ぐことが難しいなか、障害を前提に早期復旧につなげる備えの強化を促している。

50年間、障害なく稼働し続けてきた全銀システムの安定性は際立っていたが、細心の注意が必要な部分の更新で障害が起き、障害発生後の対応も後手に回った。ある大手行の幹部は「油断や慢心があったのではないか」と指摘する。

全銀ネットは18日、障害で利用者に生じた負担を補償することも発表した。障害が起きた銀行を避け、別の銀行で振り込みをした際に生じた手数料の差額分を補償する。1件あたり数十〜数百円になるとみられる。送金を急ぐため、利用者が二重に振り込んだ取引の取り消しに伴う手数料も対象となる。

障害で口座振替の予定日に支払いができなかったことによる遅延損害金や、送金の遅れで一時的に残高不足となって自動的に生じた貸付金の金利も補償する。

全銀システムは旧電電公社の時代からNTTデータが担ってきた。「ベンダーにも解明するよう伝えている」。18日の会見で辻氏が口にした言葉には、ベンダー依存の体質がにじんでいた。


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