中国は午前注文で午後配達 日本気づけば「物流後進国」

自動運転技術を使った京東集団(JDドットコム)の配送車(2023年6月、江蘇省宿遷市)

年間に宅配される小包の数が1000億個超と日本の20倍以上に達する中国。内陸部にある新疆ウイグル自治区の田舎であっても、住民はネット通販の当日配送サービスを利用できる。

街中を走る自動運転車や、荷積み作業を効率化する自動倉庫などの物流テクノロジーが、広大な国土での当日配送を可能にする。ネット通販大手の京東集団(JDドットコム)傘下の京東物流は2022年12月期だけで30億元(約600億円)超を研究開発(R&D)に投じた。「『午前注文、午後受け取り』のサービスを中国の数百の都市で展開している」。担当者はこう胸を張る。

運転手不足は各国共通の課題だ。国際道路輸送連盟(IRU)が22年に出した報告書によると、世界で260万人以上のトラック運転手が足りない。危機感をようやく持ち始めた日本に対し、世界は対策に動いている。

NX総合研究所(東京・千代田)によると、米物流大手のUPSは世界で1000以上の特許を出願している。配達・集荷や在庫管理を効率化するシステムなどの特許で、省人化を進めている。流通経済大学の矢野裕児教授は「物流テックで日本は後れを取っている」と指摘する。

日本勢も省人化技術の導入を急ぐが、ハードルは高い。日本ではメーカーごとに異なる大きさの段ボールをトラックへ積み込む「ばら積み」が多く、省人化の妨げになっている。段ボールや、段ボールを載せる「パレット」の規格統一は待ったなしなのに、その道筋は見えていない。

トラック運転手の待遇改善も遅れている。米小売り大手ウォルマートは入社1年目のトラック運転手に最大11万ドル(約1600万円)の給与を支払うと公表した。

一方、日本のトラック運転手の賃金は400万〜500万円程度だ。野村総合研究所の小林一幸氏は「多重下請け構造の物流業界は中抜きが多く発生し、運賃を上げても運転手の賃上げに寄与しにくい」と分析する。

カギとなるのは働き手の多様化だ。日本のトラック運転手の女性比率はわずか数%だ。10%を超える米国と比べ少ない。

従業員の女性比率を22年度で26%と、13年度比で9ポイント上げた佐川急便。短時間から働ける仕組みに加えて、荷物の積み下ろし作業にかかる身体的な負担を減らす「スワップボディー車」を導入するなど、ハード面でも女性が働きやすい環境を整えた。女性が運転しやすいトラックの開発も必要となる。

物流大手SBSホールディングスの鎌田正彦社長は「テンポラリー(一時的)な労働力の確保も重要な選択肢だ」と柔軟な働き方の必要性を説く。国の規制緩和により、22年に軽乗用車での配達が認められるようになった。運転手不足の中で、単発で配送を請け負う「ギグワーカー」を活用しやすくする環境整備は今後も欠かせない。

かつて日本は、配達の早さ、時間の正確さと高度な配送網で物流先進国と言われていた。潜在的な人材の活用が進まなければ、「物流後進国」に後退しかねない。

湯沢維久、石崎開、佐藤優衣、川上尚志が担当しました。

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