東電、見誤った2つの「再」 原発稼働なら3000億円

東京電力ホールディングス(HD)の自力再建が遠のいている。再建の本格化から12月で7年目に入るが、経常利益は2022年度までの平均で1241億円と計画の5割にとどまる。再建策の柱ともくろんだ原発再稼働と事業再編が進まない。原子力規制委員会による原発運転禁止は解除の方向だが地元同意を取り付ける必要があり、再稼働はなお見通せない。

「一層の努力を東京電力に求める」。筆頭株主の原子力損害賠償・廃炉等支援機構(原賠機構)は1日、東電が17年度から取り組む経営改革について報告書を公表した。厳しい表現で東電の収益改善の遅れを指摘する。

再建計画では、東電は福島事故による賠償や廃炉の費用約16兆円を中長期で負担する。毎年約5000億円の資金を出しながら、長期的に純利益で4500億円を稼げるようにするとした。だが実際は大きく乖離(かいり)する。資金拠出は17年度こそ5000億円を超えたもののその後減り、22年度は3376億円に落ち込んだ。純利益も6年間の平均で1106億円にとどまる。

本業の稼ぐ力は落ちている。再建計画では17〜26年度に経常利益で1600億〜2150億円を稼ぎ、20年代に3000億円を稼ぐとしていた。しかし22年度までの平均で1241億円。東電は送配電と水力などの再生エネ事業だけで年1000億円強の利益を稼ぐ。経常利益が計画を大きく下回るのは、原発を再稼働できず小売事業が弱体化したからだ。

柏崎刈羽原発(新潟県)は発電設備、核燃料などで1兆円の資産を計上し、1基稼働すれば月100億円程度の採算改善につながる。21年度までに7号機を動かせそうだったがテロ対策の不備が相次ぎ見つかり、21年に原子力規制委員会に運転を禁じられた。

規制委による運転禁止は年内にも解除される方向だ。みずほ証券の新家法昌シニアアナリストは6、7号機がともに動けば「27年度に経常利益で3000億円程度」と予想する。ただ地元同意を取り付ける必要があり、なお再稼働時期は示せていない。地元自治体の再稼働への反対論は根強い。

原発を再稼働できず、弱体化したのが小売事業だ。電気の大口仕入れ先を失ったため、販売分の2割程度を卸市場などで割高に買って賄っている。東電管内の電気代(標準家庭)が関西電力の1.2倍に上るゆえんだ。新電力との競争でも押されており、電気の契約数は16年以降約3割減った。

再建策のもう一つの柱だった、業界再編も進まない。東電は送配電や原子力事業で他社との再編を検討してきたが、実現したのは中部電力と燃料・火力事業を統合したJERA(東京・中央)のみ。福島事故の責任を負う東電との協業に「皆が及び腰」(東電幹部)なためだ。「福島事故の資金負担を求められる」と警戒され、交渉が破断になったこともある。

東電側もグループの完全分離には抵抗感がある。小売りなど4事業を分社化したものの、持ち株会社の無担保借入金を送配電子会社が保証するなど実質的には一体だ。大和証券の西川周作シニアアナリストは再編を進めるには「事業ごとに資金調達を自立させるなど、持ち株会社と子会社の間で遠心力を働かせる仕組みが必要」と指摘する。

有利子負債は9月末で6.2兆円と再び増加傾向だ。4月には銀行団から4000億円の緊急融資を受けた。短期借入金の比率は約4割に高まっている。22年度に燃料高が直撃して2853億円の経常赤字になったのに加え、保有資産の売却が一段落した影響が大きい。

ただ資金繰りは不安視されていない。米S&Pグローバルは国による支援を考慮し、東電の格付けを「ダブルBプラス」と本来の評価よりも3段階引き上げている。格付投資情報センター(R&I)も国が金融機関とともに資金繰りを支える枠組みが「揺らぐことは考えにくい」とする。それだけ国への依存度が増している。

国は議決権ベースで5割保有する東電HD株を将来売却し、福島での除染費用4兆円に充てる計画だ。売却で想定する株価水準は1500円。足元の株価はこれより4割安い。福島事故に伴う費用拠出を優先するため、復配を凍結している。足元の売買は個人などの短期取引が中心で、「ファンダメンタルズ(基礎的条件)で投資判断できない」(国内証券)として機関投資家は見向きもしない。

東電は24年度にも再建計画の更新を迎える。小早川智明社長は「大胆な改革実行へ全力を尽くす」とするが、具体的な道筋は描けていない。原賠機構の添田隆秀執行役員も東電の利益目標は「野心的」だと認める。EY新日本監査法人は有価証券報告書で「強調事項」として、福島事故の除染・賠償の一部費用は合理的に見積もれず、原発解体費用の見積もりも今後変動する可能性があるとする。

実質的な国有状態から抜け出せない東電は、今後も上場会社であり続けるべきなのか。国、銀行団を含め、正面から見つめ直す時期に来ている。

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