Nikkei Online, 2024年1月3日 10:29更新
羽田空港で日本航空機と海上保安庁の航空機が衝突した事故で、運輸安全委員会による調査が本格的に始まった。同じ滑走路上でなぜ2つの機体が交錯したのか。経緯の解明には管制官との交信記録の解析と両機長らの認識の確認が重要なポイントになる。
運輸安全委は2日夜、現地に調査官6人を派遣した。3日から事故現場での調査が本格化するとみられる。
事故は2日午後5時50分ごろ発生した。札幌(新千歳)発羽田行きの日航機が着陸のためC滑走路に進入した。海保機と衝突し両機とも炎上。海保機の乗員6人のうち5人の死亡が確認された。日航機は乗客乗員379人のうち14人が負傷した。
滑走路に複数の機体が入り込む事態を避けるのが安全な離着陸の前提となる。空港側の管制官が各機と交信し、滑走路への進入を許可したり誘導路での待機を命じたりし接触を避ける。
国交省によると管制官は通常、滑走路ごとに割り当てられる。同じ滑走路を使う場合は、民間機も公的機関の機体も同じ管制官から指示を受ける。誘導路から滑走路へ入る際は手前の停止ラインで一時的に待機することが多い。進入には許可が不可欠だ。
海保機の動きは少しずつ判明してきた。能登半島地震での被災地への物資運搬のため離陸しようとして、誘導路からC滑走路へ入ったとされる。
一方、日航側は2日夜の記者会見で「現状は着陸許可は出ていたと認識している」と説明。乗員からの聞き取りをもとに「滑走路に通常どおり進入し、通常どおりの着陸操作を開始したところ衝撃があって事故に至ったことを確認した」と述べた。
調査で最も重要になるのが管制官と日航機、海保機との交信記録の解析だ。管制側には音声データが残されているとされ、運輸安全委は内容の検証を急ぐとみられる。聞き取りなどを通じて各機側の認識についても調べる。
現地では両機体の損傷状況も詳細に調査するとみられる。損傷状況の分析は両機の衝突当時の位置関係や炎上に至った経緯の解明につながる可能性がある。
運輸安全委の調査目的は事故の責任追及ではなく、原因究明と再発防止だ。調査を通じ必要と認めた場合には、関係機関に安全対策向上のための勧告などを出す。
航空事故の調査結果がまとまるまでには年単位の時間がかかるケースが多い。1994年に名古屋空港で中華航空機が着陸直前に失速し墜落した事故では報告書がまとまるまで約2年3カ月かかった。
運輸安全委の調査と並行し、警視庁も捜査に乗り出す。同庁は3日、東京空港警察署に捜査本部を設置、業務上過失致死傷の疑いも視野に入れる。警察の捜査は刑事責任の有無を調べるのが主眼で、現場検証や関係者からの事情聴取を進める方針だ。
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異例の事故が起きた原因として考えられる点などについて、識者の見方を聞いた。