Nikkei Online, 2024年4月5日 19:05
国土交通省は「自家用車活用事業」と呼ぶサービスを4月から解禁した。一般のドライバーが自家用車を使って旅客を運び、対価を得る仕組みだ。
いわゆるライドシェアの一種だが、縛りがきつく、足元のタクシー不足解消にどこまで効果があるか現時点ではよく分からない。
日本全体が人手不足に直面するうえに、タクシー運転手は高齢者が多く、担い手不足がさらに深まる可能性もある。政府は安全性に配慮しつつ、本格的なライドシェア導入へ準備を進めるときだ。
「自家用車活用」の特徴は地域と時間帯の細かな絞り込みだ。例えば東京23区ではタクシー不足の著しい平日の午前7時〜同10時台や土曜の午前0時〜同4時台に限り一般の運転手の参入を認める。各時間帯ごとに車両数の上限を設け、それを超えてはならない。
さらに参入を希望する人はタクシー会社と契約し、その管理下で働く必要がある。運転手への研修や始業前の点呼、車両の安全管理などもタクシー会社の責任で実施する。日本交通など大手タクシー会社が近くサービスを始める予定で、実際にどれだけの人が就業するのか、消費者がどう受け止めるのかに注目したい。
ただ、移動の足の不足は今回「自家用車活用」が始まる東京のような大都市だけでなく、郊外や過疎地でも深刻だ。多くの自治体首長がライドシェアを望むのは、バス路線の縮小や高齢者の免許返上で移動困難者が増大し、生活の質の低下が懸念されるからだ。
加えて需給は刻々と変動する。急な雨やイベントでタクシーが極端に不足することもあるが、地域や時間帯を固定した今回の制度では対応できない。需給に応じて料金を変えるダイナミックプライシングの導入など供給を柔軟に増やす仕組みが不可欠だろう。
タクシー業界はライドシェア拡大に強く反発しているが、厳しい人手不足のなかでタクシーがライドシェアに駆逐されることは考えにくいのではないか。
バイクや自転車でできるウーバーイーツの配達員は全国で約10万人とされる。自家用車が必要なライドシェアの参入障壁はそれより高い。一方で法人タクシーの運転手は過去10年で15万人減った。ライドシェアを拡大したとしても、なお供給不足が続く恐れもある。国民の足の確保のために何をすべきか、大局的な議論を期待したい。