「年上好き」令和男子、経済力求める 少子化対策の盲点

婚姻数の減少傾向が続いている

昭和の記憶は薄れ、平成も過ぎ去った。令和の今、結婚観は変化している。「夫は年上、妻は年下」「結婚は勢い」「夫婦は添い遂げるもの」――。こうした価値観は当たり前ではなくなった。少子化対策をより難しくする一因となる。

都内に住む30代の松本尚樹さんは2年前、付き合っていた彼女にプロポーズした。ホテルのレストランを予約し、婚約指輪も買って「結婚してください」。懸命に準備したサプライズはばれていたが、応じてくれた。

彼女は1歳年上で、年収も松本さんより高い。収入の差に驚かれることもあるが「全く気にならなかった」と話す。「むしろ夫は仕事、妻は家庭などと役割が偏るのは嫌だった。お互いに働き、家事も育児も分担できるのが理想だった」と語る。

妻が年上の夫婦は増えている。厚生労働省の人口動態統計によると、2023年に結婚した初婚同士の夫婦のうち24.8%は妻のほうが年上だった。1970年(10.3%)から右肩上がりで、過去最高を更新し続ける。

ニッセイ基礎研究所の天野馨南子・人口動態シニアリサーチャーは「20代男性に限ると年上の妻は3割を超える。男性が女性を養おうとする結婚の形は減っている」と話す。

背景には、男女が互いに経済力を求めるようになったことがある。2021年の出生動向基本調査によると、結婚相手となる女性の経済力を「重視・考慮する」と答えた独身男性は48.2%に上った。02年(29.4%)から19ポイント上昇した。

男性が結婚相手の女性に望む生き方は「結婚し子どもを持つが、仕事も一生続ける」との回答が39.4%と初めてトップになった。かつて上位だった「専業主婦」(6.8%)や「結婚し子どもを持つが、いったん退職する」(29.0%)を上回った。

22年の就業構造基本調査によると、30代で職のある男性は年収が高いほど未婚率が低い。30代で職のある女性では、年収150万円から999万円まで未婚率は4割前後でほぼ横ばいだ。1000万円を超えると未婚率は3割以下にぐっと下がる。稼ぎの多い女性が結婚しにくいとされたのは過去の話だ。

男性も女性も経済力を求める傾向が強まると、条件に合う相手を見つけるのはより難しくなる。

婚外子が少ない日本では結婚する夫婦が増えなければ少子化傾向は反転しにくい。石破茂首相は「少子化の本質は『少母化』だ。結婚したくてもできない人に光を当て、人口減少に歯止めをかける」と話すが、ハードルはかつてよりも高い。

こども家庭庁は7月、若者の結婚や出会いを支援する「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」を立ち上げた。名称に「結婚」「婚活」といったワードを入れなかったところに、結婚すべきだという価値観の押しつけとみられるのを避けたい思いがにじむ。

加藤鮎子こども政策相(当時)は「結婚は個人の自由な意思決定に基づくものであることが大前提だ」と繰り返した。

同庁は25年度予算の概算要求で自治体が設置する結婚支援センターへの交付金やマッチングアプリの普及啓発といった事業に計53.2億円を計上した。24年度当初予算から42.4億円上積みしたものの、抜本的な改善につながるとの期待は低い。22年度に結婚支援センターで成婚したカップルは全国で1698組と全体の 0.3%にすぎない

岸田文雄前政権の「異次元の少子化対策」は児童手当や保育の充実など子育て世帯の支援が中心で、野党からは「未婚者への対策が不十分だ」(立憲民主党の長妻昭代表代行)との批判があった。令和の結婚観を踏まえたうえで、結婚をどう後押しするかは積み残された宿題の一つだ。


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