Nikkei Online, 2025年2月10日 5:00
タクシー大手の第一交通産業は、全国屈指のスキーリゾート地として知られる長野県白馬村で急増するインバウンド(訪日外国人)の移動需要に対応するため、隣県の新潟から運転手を派遣する施策を始めた。白馬村では1カ月の手取り額が100万円を超える運転手も出ている。引き合いが強い地域に人員を送り込み、輸送力向上と運転手の収入増の一挙両得をかなえる。
「冬は毎日1000本以上も配車依頼の電話がかかってきて対応しきれない。戦場のようだ」。そう漏らすのは、白馬村でタクシーを運行する第一交通産業グループ、アルプス第一交通(長野県大町市)の森山良子・統括部長だ。
白馬村の営業所に所属する運転手は10人程度。本社から応援を出すほか、2024年12月から25年3月までの期間は新潟市を地盤とする新潟第一交通(新潟市)から希望者6人の派遣を受け入れることにした。前年同期に4人を試験的に受け入れたところ、全体の売り上げを引き上げる効果が確認できたため、本格的な運用に踏み切った。今冬は派遣を含め30人体制で村内の乗務にあたる。
派遣運転手は自家用車で新潟から長野に移動し、住所変更や乗務員証の登録、主要な乗降地などを学ぶ講習を済ませてから1人1台ずつタクシー車両を借り受ける。寝泊まりには、アルプス第一交通が冬季限定で借り上げた本社近くの旅館を使う。
白馬村では富裕層の訪日外国人観光客の長距離タクシー利用が多い。村から成田空港までジャンボタクシーで移動するといった1回の運賃が20万円を超える依頼も頻繁に入る。24年12月から50言語に対応する米国の配車アプリ、ウーバーが村内で使用可能になったのも追い風だ。年間の観光客数は新型コロナウイルス禍前の19年を超えた。
人口が白馬村の80倍の新潟市で事業展開する新潟第一交通には、約170人の運転手が在籍する。山崎啓樹代表は「冬の白馬村は稼げる一方、新潟市より業務の負荷が大きい。営業成績が良くメンタルが強い人材を送り出している」と人選の基準を明かす。
新潟市中心部では忘年会シーズンと春休みとの間の1〜2月はタクシー利用が低調で、人員の余裕が生まれやすい。同社は25年度中に主婦など一般ドライバーを活用した10台のライドシェア運行を市内で始める計画で、より多くのタクシー運転手を派遣できる体制を整える。