Nikkei Online, 2025年5月18日 5:00
コメの価格高騰が続いている。政府備蓄米の放出を3月に始めて抑え込みを狙ったものの、その効果は見えづらい。消費者の不満が強まる一方で、農林水産省の幹部は一様に「切れるカードが見つからない」と話す。
2024年夏以降の「令和のコメ騒動」は猛暑による品質低下や南海トラフ地震の注意情報による買い置きの拡大が引き金となった。1995年のコメの流通自由化後、JA(農業協同組合)以外の取引参加が増えた状況で、先高観から買い付け競争が激しくなり、前年比で2倍超の水準まで価格が上がった。
「訪日外国人客の急増を受けて外食産業が買い占めている」「ふるさと納税の返礼品として確保する動きが各地で見られる」といった声が卸関係者からは聞かれる。供給力が落ちたところに、動かそうにも動かせないコメが増えたことで、農水省は「価格には関与しない」と静観するしかなくなっている。
ロシアのウクライナ侵略後に肥料が高騰し、その他の資機材も価格が上がってコメの生産コストは増加した。目下の店頭価格の上昇で、農家からは「採算がようやくとれるようになってきた」との声が漏れる。せっかく上がったコメの価格を下げる政策を農水省はとりにくく、備蓄米の放出にも当初は後ろ向きだった。
江藤拓農相は9日の記者会見で、放出後も下がらないコメの価格を念頭に「期待された結果が出ておらず、申し訳ない気持ちがある」と陳謝した。
ただ、遡ること半年前の2024年10月に記者会見した当時の坂本哲志農相は「備蓄米を放出しない決断に誤りはなかった」と退任の弁を述べていたほどだった。新米が出回れば、価格は落ち着くとの見通しをもっていた。
今夏に参院選をひかえ、価格の引き下げに躍起なのは首相官邸だ。農水省との間に溝も生まれている。
備蓄米の放出を受け入れてからも、農水省は「価格にはコミットしない」(江藤氏)との見解を繰り返し示してきた。価格上昇が止まらないなか、4月には官邸に押し切られる格好で、7月までの毎月の追加放出を決めることになった。
コメを巡っては、生産者の高齢化を背景に離農への対処が喫緊の課題となっている。農水省も座視しているわけではない。暑さに強く収量の多い品種の普及拡大に努め、海外の販路開拓を後押ししている。生産基盤の維持にどこよりも心を砕く。
江藤拓農相は20日の閣議後の記者会見で、コメ価格の値上がりについて「非常に重く受け止めている」と述べた。「コメは買ったことがない」との江藤氏の発言が批判を浴びていることをめぐっては「私は備蓄米の放出を決断した本人でもあり、最後まで責任を取るところまでやらせてほしい」と話し、改めて続投の意向を示した。
農林水産省によると、5月5〜11日時点のコメの平均店頭価格(5キログラム)は前週比54円(1.3%)高い4268円だった。前週は18週ぶりに19円値下がりしたものの、再び上昇に転じた。前年同期(2108円)の2倍を超える高値が続いている。
江藤氏は18日の佐賀市内の講演で「私はコメを買ったことがありません。支援者の方がたくさんコメをくださるので、まさに売るほどある」と語ったと佐賀新聞などが報じた。
石破茂首相からは「備蓄米放出の結果を出してほしい。しっかりやれ」と声をかけられたと明かした。SNS上の反応を確認したとして「国民がいかに憤慨しているかを見た。大臣を続ける上で目を背けず、職務に励むべきだと思った」と陳謝した。