備蓄米放出「JA外し」の荒療治 石破政権、参議院選挙へ焦り

米対策集中対応チームの発足式後、取材に応じる小泉農相(26日、農水省)

政府は備蓄米を小売業者に直接放出する仕組みに転換した。集荷業者を通じた従来方式は流通の目詰まりをおこし、価格を下げる効果が出なかったためだ。夏の参院選をにらみ、JAグループなど集荷業者を中抜きする荒療治で消費者の不満解消を急ぐ。

「備蓄米はいざという時のためにあるもので、今こそいざという時だと思う」。小泉進次郎農相は26日、農林水産省内で記者団に強調した。事務次官をトップとする集中対応チームを発足させて「5キロ2000円」との目標達成に取り組む。農水省や地方部局を含めて500人規模で対応する。

政府の備蓄米放出はこれまで「焼け石に水」に終わってきた。農水省が26日発表したコメの平均店頭価格(12〜18日時点、5キログラム)は前週比17円(0.4%)高い4285円で最高値を更新した。値上がりは2週連続だ。

農水省は3〜4月に3回の入札で備蓄米31万トンを放出したものの、店頭価格にはほとんど影響がなかった。精米や卸など流通過程でコメが滞り、小売りや消費者に届かなかったことが原因だ。

放出手法を随意契約に改め、売り渡し価格は国が決める仕組みにする。迅速に消費者に届けるだけでなく、集荷業者や卸を介さない中抜きによって中間マージンを節減する狙いがある。

全国の保管倉庫から契約業者の指定先まで運搬する費用を国が負担するのも流通コストを抑えるためだ。費用は国の食料安定供給特別会計から支出する。

不当に大きな利幅を上乗せしていないか確認するため、契約先の小売業者にPOS(販売時点情報管理)データの情報提供を求める

集荷や卸を経由せず、小売業者に備蓄米を提供する手法は禁じ手だった。それでも、入札を前提にすると落札価格が上がる懸念があった。

一連の手法について小泉氏は「今回は備蓄米を安価で安定的に供給するという新しい目的を設定した。法律の考え方に整合できる形で対応する」と方針転換の理由を説明する。

農水省の備蓄米の流通状況に関する調査では、4月27日までに小売業者へ引き渡された備蓄米は1万4998トンで、3月放出分(21万2132トン)のうちわずか約7%だった。

過去3回の備蓄米の放出では、いずれも全国農業協同組合連合会(JA全農)が9割以上を落札した。店頭に並ぶまでに時間がかかっており、コメ価格の高騰を抑える効果も乏しかった。

石破茂首相は21日の党首討論で「コメは3000円台でなければならない。一日でも早くその価格を実現する」と述べた。小泉氏は23日、6月上旬にも「5キロ2000円を実現できる」と踏み込んで退路を断った。

日本経済新聞社の5月の世論調査で石破内閣の支持率は34%で、30%台の厳しい状況が続く。「コメを買ったことがない」と失言し事実上更迭された江藤拓前農相の後任に就いた小泉氏に「期待する」との回答は65%だった。

参院選を控え、少数与党の石破政権にとってコメ価格を巡る公約の成否は政権の浮沈を握る。

「令和の米騒動」は緊急時に備えたはずの備蓄米をすぐに消費者に届けられない実態をあらわにした。主食のコメを聖域とし、保護してきた日本の農政の抜本的な立て直しに取り組む姿勢を示せなければ、逆風はさらに強まる。


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備蓄米放出「JA外し」の荒療治 石破政権、参議院選挙へ焦り

Nikkei Online, 2025年5月27日 12:22更新

記者会見で説明する小泉農相(27日、農水省)

小泉進次郎農相は27日の閣議後の記者会見で、政府備蓄米の随意契約による売り渡しを巡り、27日の午前9時時点で、19社から合わせて備蓄米9万824トンの申請があったことを明らかにした。小泉氏は「早ければ29日にも備蓄米の引き渡しを行う。6月第1週目に店頭に並ぶめどが見えてきた」との見解を示した。

農林水産省は27日、同日午前9時までに備蓄米の随意契約を申請した19社を公表した。

電子商取引の楽天グループ、ドラッグストアのサンドラッグ、食品スーパーのオーケー、牛丼店などを出店するゼンショーホールディングス(HD)、ホームセンターのカインズ、ディスカウント店「ドン・キホーテ」を展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)など多様な企業がならんだ。

小泉氏は随意契約の対象については「今後は小規模な商店などにもきめ細かく備蓄米を届けられるよう、随意契約の形を変えることも含めて考える」と話した。

小泉氏は同日、参院農林水産委員会での所信表明演説で「備蓄米の放出により国民の不安感を払拭し、これ以上のコメ離れを防ぐ」と強調した。対米関税交渉については「農林水産業を犠牲にしないという方針のもと、国益の確保に向けて関係省庁と連携ししっかり対応する」と述べた。

農林水産省が26日に発表したコメの平均店頭価格(12〜18日時点、5キログラム)は前週比17円(0.4%)高い4285円だった。値上がりは2週連続で最高値を更新した。