コメに翻弄される日銀、
物価の専門家を悩ます想定外の高騰

政府が随意契約で放出した備蓄米を買い求める人(6月、東京都大田区)=共同

ある日銀関係者は毎週、近所にある2つのスーパーを回っている。2024年の夏場の品薄で価格が高騰した「令和のコメ騒動」以降、定期的にコメの価格や売れ行きをチェックするようになった。最近は備蓄米が売れ残るなど価格上昇が鈍ってくる兆候を感じ、ほっと胸をなで下ろしたという。

「ある意味(トランプ米政権の)関税政策よりも難しい」。日銀内からは、コメ価格の先行きを占う難しさについて皮肉交じりにこんな声が上がる。昨年の夏場の品薄をきっかけに、農業協同組合(JA)や大手卸以外に小規模の流通業者やブローカーが台頭し、流通の全体像を把握するのが難しくなったためだ。

日銀がコメ価格の見通しに神経をとがらせるのは年4回公表する経済・物価情勢の展望(展望リポート)で見通す消費者物価指数(CPI、生鮮食品を除く)の内訳にコメが含まれているためだ。「中銀がコメ価格を予測するのはどうなのか」。日銀内ではこんなジレンマも浮かぶ。

そもそも24年の夏ごろ、日銀内ではコメ価格の上昇は一時的との見方が大勢を占めていた。秋以降、新米が出回れば需給逼迫は改善し、価格は元通りに落ち着くとみていたためだ。ところが、価格はさらに高騰。思わぬ誤算に1月の展望リポートでは25年度の生鮮食品を除くCPIの前年度比上昇率を1.9%から2.4%に上方修正した。

日銀がコメを無視できない理由がもうひとつある。他の食料品価格や消費に与える影響が大きいためだ。主食であるコメの価格が上昇すれば、あらゆる食料品が値上げを余儀なくされ、個人消費の下押し要因となる。

コメ価格の高騰が消費者に与えるショックは大きく、家計の物価観は変わりつつある。日銀が公表した6月の「生活意識に関するアンケート調査」によると個人が予想する1年後の物価は12.8%上昇と現行の方法で調査した06年9月以降、過去最高だった。

6月のCPIをみると米類の前年比上昇率が2倍を超える状況が続く。今秋には25年産米が本格的に流通し始めるが、日銀内では「(前年比でみた)伸び率は下がっても水準まで下がるかは分からない」との見方がある。今年も猛暑や水不足でコメの生育が懸念されるなか、価格の先行きには慎重にならざるを得ない。

帝国データバンクによると25年に値上げを予定している飲食料品数は2年ぶりに2万を超える見通しで、値上げが収まる気配は見えない。日銀は31日公表の最新の展望リポートで、食品高騰に伴う物価高を反映する形で、25年度の物価上昇率を2.2%から2.7%へ上方修正した。日銀がコメに悩む時期は今後もしばらく続きそうだ。

(高橋理穂)


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