Nikkei Online, 2023年5月22日 6:49更新
主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)が3日間の日程を終えて21日に閉幕した。ウクライナのゼレンスキー大統領が電撃的に来日し、ロシアへの反転攻勢に向け支援を訴えた。サミットはロシアと中国の抑止や核軍縮がテーマになった。サミットで打ち出した成果を3つのポイントでまとめた。
ゼレンスキー氏が20日に来日し、21日のサミットに討議に対面で出席した。日本政府側によると本人の強い意向で、オンラインの予定から変更になった。
ゼレンスキー氏が戦時下に東アジアまで足を運んだのは国際世論を喚起し、各国に支援を訴える機会として捉えたためだ。G7首脳はゼレンスキー氏との会合で軍事、財政両面で結束して支援を続けると約束した。
ロシアと近い関係を維持するインドのモディ首相らが加わったG7拡大会合でも「一方的な現状変更の試みを許してはならない」との認識を共有した。「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国を巻き込み、「法の支配」に基づく国際秩序を維持・強化する意思を示した。
ウクライナは近く反転攻勢にでる構えだ。ゼレンスキー氏はサミットに合わせてバイデン米大統領と会談した。米国の戦闘機「F16」などの兵器の供与を求めた。年内にも実戦投入が可能になるとの見方がある。
G7首脳でまとめたウクライナに関する共同文書はロシアへの輸出制限を「侵略に重要な全ての品目」に広げると掲げた。制裁を強化し、ロシアの戦力をじわじわとそぐ作戦だ。中国などを念頭に第三者によるロシアへの武器供給の阻止も強調した。
岸田文雄首相は21日にゼレンスキー氏をともなって広島平和記念資料館(原爆資料館)を案内した。核兵器の使用をちらつかせて威嚇するロシアを批判する狙いがあった。
核を保有する米英仏を含むG7首脳は19日、初めてそろって原爆資料館を訪問した。核軍縮に特に焦点を当てた主要7カ国(G7)首脳による初の共同文書「広島ビジョン」を発表した。
核のない世界を「究極の目標」と位置づけ「安全が損なわれない形で、現実的で実践的な責任あるアプローチ」に関与すると確認した。ウクライナへ侵攻するロシアを巡り「核兵器の使用の威嚇、いかなる使用も許されない」と強調し、核拡散防止条約(NPT)体制の堅持も唱えた。
サミットで陰の主役と呼べるのが中国の存在だった。中国は将来の台湾統一をめざし東・南シナ海で軍事的拡張を急いでいる。
首脳宣言には台湾統一へ武力行使の可能性を排除しない中国の抑止という狙いがにじんだ。台湾海峡の平和と安定は「国際社会の安全と繁栄に必要不可欠」と記した。前の年の22年のG7首脳宣言にはなかった言葉だ。
東大の松田康博教授は「22年に日本政府がまとめた国家安全保障戦略で用いられた強い文言だ。中国が武力行使に踏みきった場合、G7は黙っていないという強烈なメッセージだ」と指摘する。
「首脳宣言の原案づくりを議長国の日本が主導し、米国が支援し、ほかの国が受け入れたと考えられる。日本政府は文言を前進させることに成功した」とも分析する。
経済を巡っては中国を過度に刺激しない工夫を加えた経緯がにじむ。「中国を害することを目的とせず、中国の経済的進歩及び発展を妨げようともしていない」と説明した。
G7は「デカップリング(分断)や内向き志向にはならない」ともうたい、「デリスキング」(リスク低減)を打ち出した。中国との経済関係を重視する独仏の意向が反映された可能性がある。
サミットは進化の早い生成AI(人工知能)の国際ルール作りが主な議題の一つだった。首脳宣言ではAIを含む新たなデジタル技術に関し「国際的なガバナンス(規律)が必ずしも追い付いていない」と認めた。
「信頼できるAI」を目指し、民主主義の価値観に基づいた見直しが必要だと主張した。生成AIについてG7関係閣僚に協議の結果を年内に報告するよう求めた。
今回のサミットは経済安全保障分野にも焦点を当てた。ここも中国が念頭にある。中国は新型コロナウイルスの発生源問題を巡り対立したオーストラリアの石炭に高関税を課したり、リトアニアとの間の輸出入を制限したりした。
G7は特定の国が不当な経済的な圧力を加えてきた場合、抑止策や対応策を話し合う協議体の創設で合意した。同志国も交えて定期的に協議する。必要な場合は共同で対抗する。
G7は半導体などの重要物資やレアアース(希土類)をはじめとする重要鉱物のサプライチェーン(供給網)強化も打ち出した。
(羽田野主)