Nikkei Online, 2023年10月8日 17:00
国土交通省はマンションの修繕積立金を巡り、積み立て途中での過度な引き上げにつながらないよう目安を設ける。負担金の増額幅が大きすぎて支払いが困難になるケースが生じているため、引き上げ幅に一定の制限をかける。管理組合に計画的な積み立てを促す。
管理組合が修繕計画をつくる際に参考にする国交省の指針を改める。マンションの規模ごとに積立額の基準を示すガイドラインなどにも負担金の目安を盛り込む方針だ。
国交省によると、指針に強制力はないものの、ほとんどの管理組合は指針をもとに計画を立てているという。
一般的なマンションは築年数の経過に伴い、壁面や柱などを大規模に修繕工事する。現在、多くのマンションで修繕のための積立金の増額幅が大きすぎて住民合意ができないトラブルが相次ぐ。
2001年に竣工したあるマンションでは計画当初に比べ、最終段階で積立金が5.3倍になる徴収計画をたてた。13年に管理組合の総会で値上げを決めようとしたところ、一部から強い反対を受けて断念。資金不足で修繕工事は延期された。
国交省によると、修繕計画の当初から最終年までの増額幅は平均3.6倍で、10倍を超える事例もある。
国交省が5年に1度実施するマンション総合調査では、18年度に修繕計画に対して積立金が不足するマンションは34.8%に上った。前回調査の13年度の16%から倍増した。足元では資材費や人件費の上昇でさらに増えている可能性がある。
古いマンションほど管理費と修繕積立金の滞納割合が高い。1969年以前に竣工したマンションのうち42.9%で滞納があった。2015年以降のマンションよりも27.5ポイント高い。計画通り集金できなければ、修繕工事の遅延などが相次ぐ恐れがある。
こうした問題を受け、国交省は積立金の引き上げ幅の目安を示す必要があると判断した。上げ幅について管理組合の決議が成立した範囲などを調査し、妥当な水準を検討する。
マンション管理に地方自治体がお墨付きを与える制度の基準も見直す。負担金の上げ幅を適正に抑えているかを認定の審査項目にする案がある。
政府は22年4月、修繕計画や積立金の状況を自治体が確認する仕組みを設けた。認定を受けた築20年以上の建物は居住者の固定資産税が減税対象となる。計画的な積み立てに向けて新築物件を対象に加えることも視野に入れる。
国交省は10月末にも有識者による作業部会を設置し、24年夏までにこうした対策をまとめる方針だ。
積立金が不足するのは積立金の徴収方法に要因がある。徴収法は修繕計画に基づいて毎月同じ額を徴収する「均等積立」と、段階的に額を増やす「段階増額積立」の2つが主流だ。国交省は管理組合の決議がいらない均等積立を推奨してきた。
これに反して10年以降に完成した築年数が浅い物件では67.8%が増額積立だった。デベロッパーなどが分譲時に安く売り出すため、当面の経費が少なく見える増額積立が採用されやすく、大規模修繕が滞るリスクを高めている。
建物の老朽化が相次げば影響は深刻だ。外壁の剝落や鉄筋の腐食などが進むと居住環境を維持できなくなり、建物周辺の安全も保てなくなる。42年末には全国で築40年以上のマンションがおよそ445万戸まで膨らむとの試算もある。