103代首相に石破氏指名 衆院の決選投票で野田氏上回る

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Nikkei Online, 2024年11月15日 5:00

左かられいわ新選組の山本太郎代表、自民党総裁の石破茂首相、国民民主党の玉木雄一郎代表

第2次石破茂内閣が11日、30年ぶりの少数与党として発足した。 自民党が10月の衆院選で大敗した理由として政治資金問題ばかりに目を向けては本質を見誤る。 もう一つの要因は「経済無策」という野党の批判に抗しきれなかったことにある。

「『経済オンチ』から日本を取り戻す戦いだ。 先進国で30年も不況が続くのは日本だけ」(れいわ新選組の山本太郎代表)

「自民は反省していない。 積極財政と金融緩和による高圧経済で賃金デフレから脱却する」(国民民主党の玉木雄一郎代表)

野党2党首が選挙戦で批判したように石破政権の経済政策方針は矛盾に満ちている。 石破首相(自民党総裁)は衆院選で「最優先すべきはデフレからの完全脱却だ」と主張した。 一方でそのために掲げたのは「物価高を克服するための経済対策」だった。

物価感はデフレよりインフレ

デフレなのか物価高なのか。消費者物価指数の上昇率は、インフレ目標である 2%を 2年半にわたって上回り続けている。 生活者の物価感をデフレかインフレかの二択で示せば、今はインフレだろう。

首相は「経済オンチ」というより確信犯的な政治レトリックを使っているとみるべきだ。 インフレ対策なら、金融・財政とも不人気な引き締め策に向かわざるをえない。

ところがデフレという単語は曖昧に解釈できる。「デフレ=経済停滞」と広義にとらえれば、ガソリン補助金のような物価高対策に大義名分が生まれ、有権者にアピールする財政出動に道が開ける。

野党の勇ましい主張も曖昧な経済用語を逆手にとった確信犯的なレトリックに満ちている。 国民民主の玉木代表は「賃金デフレ」という言葉を使う。 それが指すのは「1996年をピークに下がり続けている実質賃金」だという。

実質賃金は、実際に生活者が受け取る賃金(名目賃金)から物価上昇分を差し引いて計算する。 2023年の実質賃金は前年から 2.5%も下落した。 生活者の不満が与党の大敗の根底にあり「手取りを増やす」という国民民主の躍進につながった。

ただ、実質賃金が下がった最大の理由は手取りが減ったからではなく、消費者物価(持ち家の帰属家賃を除く総合)が 3.8%も上がったからだ。 賃金と物価がそろって上昇すればダメージはないものの、現状は円安を起点に賃金上昇を上回るインフレ圧力がかかっている。

複雑な構造改革こそ必要

本来なら引き締め的な円安対策を講じるのが王道だ。玉木氏はそれを「賃金デフレ」と言い換えることで、所得税の非課税枠拡大といった大幅減税案で有権者の歓心を買うことに成功した。

衆院選で議席を増やしたれいわの山本代表は「30年不況」という厳しい言葉を繰り返す。経済論議の中で「不況」とは通常、景気循環上の悪化局面を指す。

実際の日本経済は、1993年から2020年までの5回の景気循環の中で拡張期は245カ月、後退期は74カ月と成長期の方が大幅に長い。長期トレンドとして「低成長」の状態にあるが、マイナス成長を続けているわけではない。

不況期であれば、失業者の増加を防ぐ即効性のある財政出動と金融緩和が必要になる。山本氏がいう「消費税減税」も検討対象の一つになるかもしれない。

経済状態が不況でなく低成長であれば処方箋は変わる。 成長企業に働き手を移す労働市場改革や国際競争力の高いハイテク産業の育成など、複雑な構造改革こそ求められる。 野党のように「減税」の一言で政策を語ることはできなくなる。

二大政党制と異なり少数野党が乱立する日本の政治は、バラマキ的な公約合戦につながりやすい。 政権を担う意志がなければ、財源も副作用も気にする必要はない。

野党第1党として議席を大幅に増やした立憲民主党は金融所得課税の引き上げなど財政バランスに目を向けた。 原発政策などをめぐり党内の足並みは必ずしもそろっていないものの、政権奪取に近づくための自覚があるからだろう。

30年の長期停滞でわかったのは、日本経済に一発逆転劇をもたらす「魔法の杖」は見当たらないことだ。レトリックではなく、息の長い地道な改革を説く責任政党はどこなのか。有権者一人一人に政治の幻惑を見破る高い読解能力が求められている。

複数の事実語るデータ、政策論争見えにくく

「ネット(差し引き)でみたら日本の財政状況は主要7カ国(G7)で良い方から2番目だ。見方を変えれば全然問題ない」。9月の自民党総裁選で善戦した高市早苗前経済安全保障相は、積極財政構想の論拠として国際通貨基金(IMF)の一つのデータを挙げる。

IMFは主要国の財務データをいくつかの計算式で算出している。高市氏が取り上げたデータは財政論議で通常は使わない「純資産国内総生産(GDP)比」だ。国・地方の総資産から総債務を引く計算式で、一般政府だけでなく関連法人も含む。これなら日本は9%ほどの資産超過となってG7内でカナダに次ぐ2位に浮上する。

ただIMFが「財政モニター」など主要報告書で債務データとして使うのは「総債務GDP比」と「純債務GDP比」で、いずれも日本は251%、155%とG7どころか新興国を加えても最悪の水準だ。

IMFは対日報告書で「債務の持続可能性を確保するには、歳入と歳出双方で下支えされた財政再建が必要」と指摘している。日本の公的債務状況を決して楽観視していない。

経済データは高市氏が言うように「見方を変える」ことが可能だ。ご都合主義に陥れば、日本の本質的な課題がみえなくなるリスクさえある。

与野党が政策を競う日本の賃金はどうだろうか。賃金を引き上げるには大きく2つの道がある。労働者側が生産性を高めるか、経営者側が労働分配率を上げるかだ。

1996年以降の日米比較データによると、日本の1人当たり生産性(実質ベース)の伸びは緩やかな上向きだが、伸びは米国の半分に満たない。賃金上昇率もほぼゼロと約1.5倍の米国と大きな開きがある。労働生産性も労働分配率もてこ入れが必要なことがわかる。

賃金を年収か時給かに分けるとまた見方は変わる。1997年に446万円だった労働者の平均年収は、パートタイムの雇用が増えた2023年に395万円まで減少した。

時給でみると2358円から2419円に2.5%上昇する。この点に着目すれば、手取りを増やすには所得税や社会保険の「壁」を見直して労働時間を増やすことも解決策になる。

米国のトランプ前政権は、17年の大統領就任式の参加者数を誇張して「もう一つの事実(alternative facts)がある」と言い放って物議を醸した。データにも複数の事実があり、政策論争を見えにくくする。

記者の目 メディアも自戒が必要

「輪転機をぐるぐる回して、日銀に無制限にお札を刷ってもらう」。実験的な経済政策を選挙で掲げた最大の成功者は安倍晋三元首相だろう。2012年衆院選で自民党を勝利に導き首相に返り咲いた。ただ金融緩和だけでは成長力を取り戻せず、今では円安のような副作用も目立つ。

現代貨幣理論(MMT)、物価水準の財政理論(FTPL)、現代サプライサイド経済学(MSSE)。実験的な経済政策論が浮かんでは消える。多くは米国学界発で、玉木氏が唱える高圧経済論もイエレン財務長官がかつて言及して火が付いた。

その米国では歴史的インフレによりバイデン民主党政権が大統領選でNOを突きつけられた。 専門用語が飛び交う経済政策論議を見極めるため、我々メディアは一般有権者以上に高度な眼力が求められる。

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