長崎県内の上位2地方銀行が合併し、圧倒的な融資シェアを持つ十八親和銀行が10月1日発足する。初代頭取に就任する森拓二郎・十八銀行頭取に新銀行の経営戦略について、同会長となる吉沢俊介・親和銀行頭取には銀行としての地域活性化の取り組みを聞いた。
――ふくおかフィナンシャルグループ(FG)との経営統合は正しい選択だったと考えますか。
十八親和銀行の初代頭取に就く森拓二郎氏
「新型コロナウイルス禍という想定外の事態を受け、強くそう思う。日銀の異次元緩和で収益環境が悪化する中、コスト引き下げ余地は(単独では)限られていた。重なる地域の店舗を減らすことで、離島を含む店舗網を維持できる」
「十八銀は県の南部、親和銀は北部と地盤が分かれ、両行とも県内の情報をくまなく持っている訳ではなかった。1つの銀行になったことで県全域の情報が集まり、スピーディーに対応できる」
――統合効果はコロナ下でも発揮できますか。
「コロナで影響を受けた企業などへの緊急融資を2行で取り合うことなく、取引先のニーズを丁寧にくみ取って資金繰り支援ができた。(1982年の)長崎大水害で顧客度外視での融資争奪戦があった反省からだ。2千社ほどある重複先は分担し、月3~4回は『御用聞き』ができた」
――新銀行はどのように稼ぐ力を高めますか。
「県内シェアは合併で70%近くになり、貸し出しをどんどん伸ばせる状況にはない。融資で利益を上げるビジネスモデルは難しくなっており、M&A(合併・買収)や事業承継の支援など手数料ビジネスで補強する」
「長崎県は家計の金融資産保有率が低く、個人向け預かり資産営業は開拓余地がある。十八銀では専門の担当者が営業活動を担ってきたが、新銀行はふくおかFG各行のようにほぼ全員の行員が営業に携わる体制にする。福岡銀行で先行稼働している投資信託評価システムも活用したい」
――県内の産業構造は転換期を迎えています。
「造船に代わる産業として、IT(情報技術)や海洋エネルギー関連に期待している。厳しい状況が続く観光業はコロナ終息後、地域間競争が一段と強まるだろう。長崎がアドバンテージを持てるよう銀行も一緒になってやりたい」
――長崎県経済の課題は何ですか。
十八親和銀行の初代会長に就く吉沢俊介氏
「人口減少が大きなテーマだ。離島や郡部が置かれた状況は、同じふくおかFGの福岡銀や熊本銀行の地盤地域とは異なる。食や観光は非常に潜在力があるが、PRや産業化ができていない。いかにプロデュースして利益を出せるようにするかがカギになる」
――課題解決へ銀行は何をしますか。
「地域で雇用を増やせる企業を育てることが大切だ。地域の中核企業を作る。業種ごとに長崎県の立ち位置を調べ、地域を引っ張る力のある企業を全国区に育てるお手伝いを考えている」
――合併効果を地域にどう還元しますか。
「2行が1つになり、人的余力も出る。取引先企業に社長の右腕となったり総務や経理を任せたりできる人材を供給する。親和銀では大口取引先に年20人程度しか行員を派遣できていなかったが、2倍以上に増えるだろう」
「(京セラなど)長崎への進出企業にあまりアプローチできていないことを反省している。『出先には決裁権がなく、銀行の業績につながらない』との考えがあったためだ。数年前から(地場企業と進出企業との)ビジネスマッチングなどを始めており、今後はまちづくりや未来づくりの観点でもつなぎたい」
――金融面ではどのように取り組みますか。
「企業をじっくり知ることで提案力を上げ、新規融資につなげる。融資開拓のため、学生向けビジネスコンテストや長崎大で起業家人材育成講座を開設したりした」
「新規起業だけでなく、社内起業もある。新規事業への挑戦を考えたり、(事業多角化による)リスク管理を検討したりする経営者は多い。情報を顧客に提供しながら経営課題の解決を促す提案をしていきたい」
――親和銀はふくおかFG傘下でどう変わりましたか。
「FGの業績管理手法で各企業を丹念に確認してリスクの所在や強み、可能性を深く見れるようになった。業界分析や他社と比較する能力が上がった。営業店内で起きていることを管理層がすぐ把握でき、行内の風通しも良くなった」
(聞き手は古宇田光敏、山本夏樹、今堀祥和)