「新幹線の利益を受けるのは長崎県で、不利益を受けるのは佐賀県だ。 今の整備新幹線スキームでの合意は至難の業だ」
長崎(長崎市)―武雄温泉(佐賀県武雄市)間で2022年9月に開業したものの、博多方面への延伸ルートが定まらない西九州新幹線。佐賀県知事の山口祥義は3月の県議会の答弁で、その原因が国にあると改めて指摘した。
きっかけはレール幅の異なる新幹線と在来線の両方を走行できるフリーゲージトレイン(FGT)の開発を国が17年に断念したことだ。武雄温泉―新鳥栖(同県鳥栖市)間は、このFGTが在来線を走って結ぶはずだった。それが開発断念により「地元関係者の『合意』の前提が崩れた」(山口)と強調する。
新幹線を新たに整備することになれば、在来線の減便など利便性低下が懸念される。佐賀―博多間は特急でも最短35分で、新幹線による時短効果は小さい。FGT方式なら不要の「膨大な建設費負担」(佐賀県交通政策課)も拒否反応の要因だ。県の試算によると実質負担額は1400億円以上と、長崎県の支出の2.5倍に上る。
一方、佐賀県嬉野市長の村上大祐は山口の答弁に「私たちは佐賀県民じゃないのか」と異議を唱える。人気温泉地の同市では、西九州新幹線開業後1年間の来訪者数が約190万人と、開業前の同期間から2割増えた。
中でも鹿児島県(172.3%増)や岡山県(97.3%増)、広島県(94.8%増)からの来訪が目立つ。「新幹線の効果は出ている」と村上。「国やJR九州と対立したままでは、大きな機会損失になりかねない」と話す。
その佐賀県の姿勢にも変化の兆しが見られる。山口はこのほど地元での合意形成を一から図る「新たな意見交換の場」を長崎県知事の大石賢吾とJR九州社長の古宮洋二に呼びかけたことを明かした。
整備区間についても言及。国やJR九州が推す佐賀駅を通る「アセスルート」とは別の佐賀市南部の佐賀空港や有明海沿岸道路と連携する「南回りルート」について、「一考に値する」と国に揺さぶりをかける。
県内の経営者らは「佐賀には地元と霞が関を説得し、最適解を導く突破力のある国会議員がいない」とこぼす。佐賀県、長崎県、JR九州トップの「政治力」で打開できるか試されている。(敬称略)