マイナ保険証「慎重にやれば…」
 厚労省の懸念現実に

混乱マイナンバー(2)

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Nikkei Online, 2023年8月2日 2:00

マイナンバー問題を巡る衆院特別委員会の閉会中審査で答弁する河野デジタル相。
左は松本総務相、右は加藤厚労相(7月)

「最初から頭ごなしに廃止と言わずに、年数をかけて移行するなど慎重に打ち出せばよかったのに」。厚生労働省内でこんな不満がくすぶり続けている。矛先はデジタル相の河野太郎に向く。

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河野は2024年秋に今の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化したマイナ保険証に切り替えると宣言した。ところがそのマイナカードを巡って問題が相次いだ。

厚労相の加藤勝信も社会保障のデジタル化を進めるため、マイナ保険証への切り替えには賛成の立場だ。保険情報の入力ミスなどは年間500万件超とされマイナ保険証には不備を防ぐメリットがある。それでも加藤は「よい医療の提供には間違いのないデータが大前提だ」と一連のトラブルに警鐘を鳴らす。

脳裏には07年の「消えた年金記録問題」のトラウマがある。紙台帳で管理していた年金記録をコンピューターに誤って入力したなどの理由で、持ち主不明の年金記録がおよそ5095万件も発生した。

今回のマイナンバーカードと健康保険証のひも付けは加入者本人の作業だ。スマートフォンなどを使って申請する際に暗証番号などが必要だが、認知症の人やスマホに慣れない高齢者らはどう対応すればいいのか。そもそもマイナカードを持っていない人はどうなるのか――。

「詰めるべきことは山ほどあるが詰め切れていない」。厚労省はデジタル庁に、せめて健康保険証の「完全廃止」は避けるべきだと訴えていた。にもかかわらず、同庁は22年10月に「保険証の廃止は『原則』という断りなく実施する」と表明した。

ここに来てその関係にも微妙な変化が出てきた。そりが合わなかった厚労省とデジタル庁は「呉越同舟」の状況にある。共通の相手は健康保険証の廃止延期を視野に入れ始めた首相官邸だ。

7月31日、官房副長官の木原誠二は加藤と面会した。強まる世論の反発を踏まえ廃止延期を持ちかけたが、加藤は「延期は認められない」と突き返した。

厚労省には慎重だった日本医師会などを説得して環境整備を進めてきた意地がある。4月にはマイナ保険証を読み取る機器導入を医療機関に義務付けた。

延期論に傾く官邸や自民党に「延期しても同じことの繰り返しだ」と主張する厚労省。衆院解散の時期を探る政局と相まって着地点は見えにくくなった。

(敬称略)