Nikkei Online, 2023年8月4日 2:00
「なんとなく不安」「もう使わない」。 5月にマイナンバーと公金受取口座のひも付けで誤登録 2件を公表した大分市。窓口にはカード自主返納の希望者が次々と訪れる。全国で問題が相次いだこともあり、返納数は7月中旬までに 40件を超えた。
【ルポ迫真「混乱マイナンバー」連載記事】
返納しても番号と個人情報のひも付けは解除されない。再発行には手数料が千円かかると説明しているが、翻意する市民は少ない。 市民課長の秦尚裕は「制度そのものへの信頼が揺らいでいる表れだ」と受け止める。
カードの普及を急ぐ政府は、買い物に使えるポイント付与などで取得を促した。各地の自治体で手続きの窓口は混雑し、大分市も休日返上でサポートに追われた。秦は「職員総出で交付したあの作業は何だったのか」とため息をつく。
市は一連の問題に先立つ2022年11月に誤登録を把握していた。窓口の端末でログアウトせずに次の申込者の入力をしたことなどが原因とみられる。デジタル庁に報告したものの、システムはすぐには改善されずトラブルは全国に広がった。同様の誤登録は940件に上る。
問題は自治体のデジタル・トランスフォーメーション(DX)にも水を差す。マイナカードを使った独自のデジタル個人認証「めぶくID」の普及に取り組む前橋市では民間企業と共同出資で新会社を設立し、全国展開をめざす矢先の事態だった。
市には窓口や電話で「自分の情報は大丈夫か」といった相談が何件も寄せられた。市長の山本龍は「うちでは個人情報の漏れも誤記載も起きていないのに」と苦い顔を見せる。
市は政府のデジタル田園都市国家構想事業に採択され、めぶくIDを公共交通の利用や子育て支援と連携させようと先駆的な取り組みを進める。カードの普及の遅れはDXの遅滞につながりかねない。
政府の総点検は自治体などが担い手になるが、具体的な作業工程は示されていない。
全国知事会長の平井伸治(鳥取県知事)は7月25日、全国知事会議の場で総務相の松本剛明に「期限の切り方、点検範囲によって負担は大きく異なる。地方と協議しながら適切な方法を考えてほしい」として要望書を渡した。政府と自治体が一体となって問題点を洗い出し、再発防止を進めることが信頼回復への一歩となる。(敬称略)