Nikkei Online, 2019/4/9 9:34更新
政府・日銀は2024年度前半に千円、5千円、1万円の各紙幣(日本銀行券)を一新させる。 麻生太郎財務相が9日午前に発表した。 刷新は04年以来となる。千円札の図柄は北里柴三郎、5千円札は津田梅子、1万円札は渋沢栄一になる。 「平成」から「令和」への改元機運を盛り上げる。 自動販売機などの関連需要が生まれるため、景気刺激の効果もありそうだ。
Nikkei Online, 2019/4/9 22:56
政府・日銀は9日、千円、5千円、1万円の新紙幣を2024年度に流通させると正式発表した。日本は世界に類をみない現金大国で、最新技術で偽造防止を強化し、今後も安全な決済手段として維持する。一方、政府は25年に現金を用いないキャッシュレス決済の比率を欧米並みの40%に上げる方針も掲げており、お金の未来像はみえてこない。
21年度上期をめどに500円硬貨も刷新する。現在の各紙幣と500円硬貨は新しい紙幣と硬貨の流通開始後も引き続き使える。政府・日銀は各紙幣の図柄は一新するが、千円から1万円の種類の変更には踏み込まなかった。
世界に目を向けると、ユーロ圏は18年末で最高額紙幣だった500ユーロ(約6万2千円)の発行を停止した。シンガポールやインドなどでもキャッシュレス化やマネーロンダリング(資金洗浄)対策で高額紙幣を廃止する流れがある。
日本でも今回の紙幣刷新について、一部では「キャッシュレス化を促すために1万円札の廃止を議論してもよかった」(野村総合研究所の木内登英氏)との声がある。ただ政府・日銀は現金主義が根強い日本で1万円札をなくせば混乱を招きかねないとして見送った。
(写真上から)新紙幣の1万円札表、
一万円札裏、5千円札表、5千円札裏、
千円札表、千円札裏の見本
国内総生産(GDP)に占める現金の存在感は日本が突出している。16年のGDPで比べると8%の米国や6%の韓国に対して日本は20%。世界で最もキャッシュレスが進み、中央銀行がデジタル通貨の発行を検討するスウェーデンはわずか1.4%で、07年時点の3.3%から半分以下になった。
スマートフォン(スマホ)決済が普及する中国では、現金の流通残高は2月末で7兆9484億元(約131兆円)と、1年前から2%減少している。日本はむしろ現金の流通が増えており、08年末の86兆円から18年末には115兆円と、10年間で3割増えた。
現金流通が多い背景には、日銀の超低金利政策の下で、銀行に預けず家計に眠る「タンス預金」の存在がある。紙幣発行残高の半分程度とされ、50兆円規模とみられる。政府はこの眠っているお金をあぶり出し、消費や投資を活性化させる副次的な効果も狙っている。
国際通貨研究所名誉顧問の行天豊雄氏は「経済の効率性を考えると、新紙幣が出てもキャッシュレスの流れは変わらないはずだ」と指摘する。経済産業省によると日本でクレジットカードや電子マネーなど現金を使わないキャッシュレス決済の比率は約20%にとどまる。これを25年に40%に高める目標を掲げており、10月に予定する消費税増税に伴うポイント還元の対象もキャッシュレス決済を条件にしている。
スマホ決済サービスを成長戦略の柱に掲げるLINEは「新紙幣の発行によって、お金に新たな流れが生まれる」と期待する。
みずほ総合研究所の高田創氏は「今後20年を考えると世界的に現金の保有や利用が減り、日本でも紙幣が使われなくなるだろう」とみる。経産省は時期を明示していないが、将来的にはキャッシュレス比率を80%まで高める目標を掲げている。紙幣の需要が減っていくなかで、今回が実質的に最後の紙幣刷新になる可能性は否定できない。