Nikkei Online, 2025年5月28日 5:38更新
【ワシントン=八十島綾平、ニューヨーク=竹内弘文】日本製鉄によるUSスチールの買収計画について、USスチールが本社を置く米東部ペンシルベニア州選出のデビッド・マコーミック上院議員(共和党)は27日、「USスチールの最高経営責任者(CEO)は米国人となり、取締役会の過半数は米国人が占める。『黄金株』が発行されるだろう」と言及した。米CNBCのインタビューで語った。
マコーミック氏によると、同氏は22日にトランプ米大統領と面会し日鉄による買収計画について話し合った。
黄金株については27日、日鉄が米政府への譲渡を検討していることが明らかになった。黄金株はごく少数の持ち分でも重要事項に対して拒否権を行使できる特殊な株式だ。マコーミック氏は、黄金株の発行は米国政府と日鉄の間で結ぶ安全保障に関する合意事項に含まれると説明した。
これにより、USスチールの取締役会の構成や米国内での生産水準の維持などについて米国政府がコントロールできるようになるとの見方を示した。この措置について「日鉄側からの提案だった」とも話し「双方がウィンウィンになる」と評価した。
日鉄のUSスチール買収を巡って、トランプ氏は23日に自身のSNSで承認する意向を示した。その後、25日に「(USスチールは)米国がコントロールすることになる。そうでなければ取引を成立させないだろう」と記者団に話した。
黄金株は各国政府が持つケースがある。英国では1980年代から主に民営化案件で政府の意向を経営に反映させる仕組みとして用いられた。
英政府は2024年、チェコの実業家率いるEPグループが英郵便会社ロイヤルメールの親会社インターナショナル・ディストリビューション・サービシズ(IDS)を買収することを認めた。英政府はIDSの黄金株を保有し、重要な意思決定への拒否権を持ち続けている。
独フォクルスワーゲン(VW)の本社がある独北部ニーダーザクセン州政府は法律に基づき、VWの黄金株を持っている。日本でも資源開発大手INPEXの黄金株を日本政府が保有している。
米国では、普通株に比べ議決権を多く持つ一般的な種類株の活用が多い一方、拒否権を行使できる黄金株は非常にまれだ。米企業統治に詳しい弁護士によると、倒産手続き中の非上場企業が債権者である金融機関に黄金株を発行する事例があるが上場企業の発行はほぼないという。