Nikkei Online, 2025年5月31日 9:58更新
【ピッツバーグ=大平祐嗣】トランプ米大統領は30日、日本製鉄が買収を目指す米鉄鋼大手USスチールが米東部ペンシルベニア州に持つ製鉄所で演説した。米鉄鋼業の国産強化や雇用拡大を訴えた。日鉄の買収計画を巡っては、同社はUSスチールの「素晴らしいパートナー」になると話した。
トランプ氏は米東部時間午後5時半(日本時間31日午前6時半)過ぎに、USスチールのモンバレー製鉄所アービン工場で、USスチールの従業員らに向けた演説を始めた。
トランプ氏は、日鉄によるUSスチールの買収計画を巡って「米国企業として存続することを保証する画期的な合意を祝す」とも話した。
演説のなかで日鉄をパートナーとして歓迎する発言を重ねたが、同時にUSスチールは米国企業であり続けると強調した。「最も重要なことはUSスチールはアメリカにコントロールされ続けることだ。そうでなければ私はこのディールをしなかった」などと話した。
パートナーシップを認めた経緯に触れ、日鉄から何度も交渉も持ちかけられ「4回ほど断った」と述べた。「毎回彼らが来るたびに労働者への条件はどんどん良くなっていった」と打ち明けた。
日鉄がUSスチールに140億ドル(約2兆円)投資すると触れ「ペンシルベニア州史上そして、米国の鉄鋼業界史上最も大きい投資だ」と述べた。日鉄は製鉄所の設備を最低10年間維持する約束をしたとして、鉄鋼労働者の「解雇はない」とも強調した。
USスチール従業員らを前にして、日鉄の買収計画の枠組みについては言及しなかった。
トランプ氏の演説に先立ち、集会イベントは現地時間午後3時過ぎに始まった。USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)や地元議員に加え、日鉄から森高弘副会長兼副社長が参加し、講演した。
ブリット氏は「トランプ大統領はUSスチールのために戦略的に大胆に行動し、米国の雇用と米国の取引、米国の強さを守るための(日鉄との)パートナーシップを承認した。最適なリーダーシップと最適なパートナーのもとでより良く、より大きなものをつくり上げる準備はできている」と語った。
地元ペンシルベニア州選出のダン・ミューザー下院議員は「USスチールが米国企業であり続けるためにこの偉大なパートナーシップがある」と聴衆に語った。
日鉄の森氏が講演を始めると、数千人集まったUSスチールの従業員らは立ち上がって歓声を上げた。拍手をしながら森氏の名前を叫ぶ従業員らもいた。USスチール経営陣は日鉄による買収を巡って、同社と歩調を合わせている。
森氏は、USスチールとのパートナーシップは「次世代の鉄鋼生産に向けた『ゲームチェンジャー』になる」と話した。「日鉄はこれから巨額の投資を始める」としたうえで「ペンシルベニア州の重要な製鉄所を守り、再活性化させるための投資も含む」と述べた。
トランプ氏は23日、SNSで日鉄によるUSスチールへの投資を歓迎し、買収を承認する意向を示した。両社の計画について「計画的なパートナーシップ」と称賛した。
一方、25日には「(USスチールは)米国がコントロールする。(日鉄は)投資をし、部分的に所有権を持つ」と述べた。日鉄が現行の計画で目指しているUSスチールの完全子会社化を含め、買収の枠組みの詳細には触れていなかった。
今回の演説については、トランプ氏自身が23日に「大規模集会でみんなと会おう。皆さんおめでとう!」とSNSに書き込み、明らかにしていた。
米ホワイトハウスは30日、トランプ氏の演説前に「USスチールと日本製鉄のパートナーシップを後押しする」と発表した。パートナーシップが「140億ドルの投資」で少なくとも 7万人の雇用を創出し、数十年の米国産の鉄鋼生産を保証するとした。