Nikkei Online, 2023年2月28日 1:00
ロシアのウクライナ侵攻から1年が過ぎ、国際秩序は一変した。日本は核兵器を持つ中国、北朝鮮、ロシアに囲まれ、複合的な危機の懸念もある。日本は昨年末、国家安全保障戦略を改定して防衛費の大幅増に踏み出した。日米同盟を「現代化」して備える。
東京都の米軍横田基地。昨秋から自衛隊と米軍の30人ほどの合同チームが稼働する。「領空侵入の恐れがあるデータです」。無人偵察機・MQ9の情報が届く。
MQ9は米軍の機体だが、鹿児島県にある海上自衛隊の基地に発着する。日米が基地や装備、人員を混然一体に使い、情報の取得や分析、対処まで連携する。
1月13日、バイデン米大統領はホワイトハウスでの日米首脳会談で宣言した。「日本の歴史的な防衛費の増額と新国家安保戦略を踏まえ、日米の軍事同盟を現代化(modernizing)していく」。横田はモデルケースだ。
現代化は主に2つ意味がある。まずサイバーや宇宙といった新領域の現代戦への対処。もう一つは格段に防衛力を高め、緊密に連携することだ。
日米同盟は「米国が矛(ほこ)、日本が盾」だった。攻撃力に限らず「米国が守ってくれる」関係といえた。いまは中国の軍事力が強大になった。日本の貢献を大幅に高め、米国と一体的に動く同盟に刷新しなければ対処できない。
「米軍と機密情報の連絡はできない」。自衛隊幹部は明かす。自衛隊と在日米軍は異なる無線機を使い、暗号化の対応は不十分だ。緊急時に共同作戦の遂行は難しい。
米国は1月、地対艦ミサイルを持つ海兵沿岸連隊(MLR)を2025年までに沖縄に置くと発表した。この最新鋭部隊も陸上自衛隊と暗号通信ができない恐れがある。
弾薬の問題もある。ウクライナには米欧が武器・弾薬を供与する。30カ国が参加する北大西洋条約機構(NATO)で兵器の統一規格があるため、融通しやすい。日米にはない。口径が同じ弾でも火薬の成分や性能が変わる。弾不足で助け合う準備は遅れている。
日米はオバマ政権時も現代化に言及したが、10年近く動かなかった。今回、日米は「中国との戦略的競争」と記す文書をつくった。そこで同盟の①現代化②態勢の最適化(Optimizing Posture)③協力関係の拡大(Expanding Partnerships)――を挙げた。
「態勢の最適化」は部隊の重点配置を指す。現代化と表裏一体だ。台湾有事に備え、南西方面に戦力を集中する。米軍は沖縄にMLRを置き、フィリピンの軍事基地も増強する。
米国が「世界の警察官」と呼ばれたのは過去の話だ。全世界に戦力を分散させる余裕は乏しい。中東は縮小し、アフガニスタンは撤退した。限られた戦力を現代化した上で、集中して配置しなければ抑止は効かない。
中国とロシア、北朝鮮が連動する懸念もある。
「中国がロシアに武器を供給しないと信じたい」。2月24日、ウクライナのゼレンスキー大統領は強調した。中国がロシアに無人機を売却した疑念が浮上し、米国は事実なら対中制裁に臨む姿勢も示す。
中ロは昨年、共同で戦闘機や爆撃機を日本海で飛行させた。韓国軍OBの趙顕珪氏は「台湾問題で米中の緊張が高まれば、中国は北朝鮮の積極的な軍事行動を容認する可能性が高い」と説く。
日本の防衛省も台湾有事で中朝ロが連携するシナリオを議論したことがある。複合的・同時多発的な危機になれば対応は難しい。
米軍は昨年、沖縄の在日米軍嘉手納基地で老朽化した54機のF15戦闘機を2年で退役させると決めた。既に昨秋から海外の基地のF16などを交代で配備するやり方に変えた。常備ではない。米安保当局者は「抑止力が落ちる」と心配する。
米国も多くの戦力を割く余裕は乏しい。だが単に米国の判断を受け入れるのではなく、日本が率先して問題提起して抑止力を高める別の道を探すことはできる。
日米は同盟を刷新する一方、防衛協力の指針(ガイドライン)は変えない。細部を詰めて文書にする時間すら惜しい、との声もあった。実質的な防衛力の増強がまずは課題だからだ。
岸田文雄首相は1月の施政方針演説で「今回の決断は日本の安全保障政策の大転換だ」と表明した。事態は切迫する。危急の大転換が日本と東アジアの平和を決める。