Nikkei Online, 2021年4月29日 13:11更新
インフラは世界各国で問題を抱えている。老朽化したシステムは非効率的で、特に気候変動により頻発する自然災害への対処に必要な耐性を備えていない。こうしたシステムを強化する適切な資金を投じなければ、企業もコミュニティーもリスクにさらされる。
例えば、米国では配水管が2分ごとに破裂し、公道の43%は「劣悪」または「あまり良くない」状態にある。米市民の半数近くは公共交通へのアクセスがなく、異常気象による停電が頻発している。
こうした要因などから、米国土木学会(ASCE)は直近のリポートカードで米国のインフラの状態を「Cマイナス」と評価した。
インフラシステムを最新の状態にするのは大変な仕事だ。財源の承認を取り付けるのが難しいうえに、米国では熟練労働者も不足している。
だが、この分野には大きなチャンスがあり、米国の公共交通の市場規模だけでも710億ドルに上る。テクノロジーはこのチャンスを活用する上で重要な役割を担うだろう。
ブロードバンド(高速大容量)回線のアクセス拡大から送電網の改革に至るまで、インフラでのテックの4大チャンスを取り上げる。
ポイント:
・米国の半数以上の郡のインターネットの接続速度は、米連邦通信委員会(FCC)によるブロードバンドの定義を満たしていない。このため、在宅学習やリモートワーク、オンライン診療へのアクセスが制限されている。
・高速通信規格「5G」の台頭は、電気自動車(EV)の充電施設の発展や送電網のネット接続など他の分野のインフラ強化にとって不可欠になる。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)により、確実なネット接続が私たちの日常生活に不可欠であることが浮き彫りになった。だがASCEによると、米国の65%の郡の平均通信速度はFCCによるブロードバンドの定義を満たしていない。
ポイント:
・バイデン米政権はインフラ投資計画の一環として、30年までにEV充電設備を国内50万カ所に設置する資金を拠出する構えだ。
・自動車メーカー各社は新たな規制に対応し、消費者はより環境を意識した解決策を求めているため、EVシフトはすでにかなり進んでいる。
投資家はすでに新たな排出規制や気候変動への懸念に対応し、EVに多額の資金を投じている。21年に入ってからこの分野への投資額は166億ドルに上り、過去最高だった20年通年を上回っている。
ポイント:
・公共交通はASCEの最新のインフラ診断書「インフラリポートカード」で最も評価が低かった分野の一つだ。
・航続距離を延ばす車載電池と充電インフラの拡大が進んでいるため、電気バスは今後増えそうだ。
・都市部では自転車やキックスケーターのシェアサービスなどのマイクロモビリティーを活用しやすくなっている。
米国の公共交通は早急に刷新する必要がある。この分野は状態が悪く、アクセスも不十分なため、ASCEの最新の評価では「Dマイナス」にとどまった。米運輸省によると、現時点でバス2万4000台以上、鉄道車両5000台、数千マイルの線路や電力系統の修理が実施されていない。
ポイント:
・現在の米国の送電網は、気候変動により頻発しつつある異常気象に対応する体制が整っていない。バイデン政権は送電網の改修に730億ドルを投じる方針だ。
・EVの普及に伴い、車載電池は送電網のエネルギー貯蔵源として「第二の人生」を見いだしつつある。
世界がますますつながるなか、安定した電力の供給がこれまで以上に重要になっている。 現在の米国の送電網(発電所から住宅や会社まで電気を運ぶ送電線、変電所、変圧器のネットワーク)は1890年代に建設されて以降、ひっきりなしに更新されてきた。 現在のシステムは総発電容量が100万メガワット(MW)を超える約9200基の発電設備からなり、全長30万マイルに及ぶ送電線に接続している。 これは相当な規模に思えるが、米国の送電網は限界に達しつつある。