Nikkei Online, 2023年2月20日 21:10更新
【リビウ(ウクライナ西部)=田中孝幸】バイデン米大統領が20日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を予告なしに訪問し、同国のゼレンスキー大統領と会談した。ロシアの侵攻開始から1年を前に「世界各国が連合を組む」と支援継続に向けた国際社会の結束を強調した。バイデン氏のウクライナ訪問は2022年2月のロシアによる侵攻開始以降、初となる。
米ホワイトハウスが発表した。バイデン氏はウクライナに新たに5億ドル(約670億円)規模の軍事支援を実施すると表明。対ロシア制裁を強化する考えも示した。
両首脳はキーウの大統領府で会談後に共同会見した。追加の軍事支援でロシアの空爆にさらされるウクライナの都市の防空能力を強化する考えを明らかにした。バイデン氏は「プーチン(ロシア大統領)の征服は失敗している」と強調した。
今回のウクライナ訪問には、民主主義陣営のリーダーとして、権威主義陣営との戦いにおける結束を内外に示す狙いがある。ロシアによる侵攻が長期化し、各国の支援姿勢には温度差が出始めた。米国でも野党・共和党でウクライナ支援予算の見直し論が浮上している。
バイデン氏は訪問の目的を「ウクライナの民主主義、主権、領土保全に対する揺るぎない関与を再確認する」ことだと説明。侵攻から1年を前に「ウクライナは立ち向かっている。民主主義は立ち向かっている。米国ではアメリカ人があなたとともに立っている」と連帯を表明した。
ゼレンスキー氏は「ウクライナが世界の自由のために戦っているこの最も困難な時期に、ウクライナにとって最も重要な訪問になった」と謝意を表明。「長射程の兵器など、未供与だがウクライナに供給されるかもしれない兵器について話した」と明らかにした。
5億ドルの軍事支援には対戦車ミサイルや榴弾砲などが含まれる。ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問によると、バイデン氏は「ロシアは確実に敗北するだろう。ウクライナは必要なすべての兵器を手に入れることになる」と語った。
現地の欧米の治安関係者によると、バイデン氏は20日午前8時(日本時間午後3時)ごろキーウに到着し、5時間程度滞在した後に隣国ポーランドに向かった。
米国家安全保障会議(NSC)当局者によるとバイデン氏のキーウ訪問は17日に最終決定した。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は20日、記者団にバイデン氏のウクライナ訪問についてロシアに事前通告していたと明らかにした。
バイデン氏はウクライナ侵攻開始から1年を前に、ポーランドの首都ワルシャワを訪問することを表明していた。21日にはワルシャワでポーランドのドゥダ大統領と会談するほか、ウクライナ侵攻への対応を巡る演説を行う予定だ。
主要7カ国(G7)ではウクライナ侵攻後、フランスやドイツ、英国、イタリア、カナダの各首脳がキーウを訪問した。
Nikkei Online, 2023年2月21日 9:27更新
【ワルシャワ=中村亮】バイデン米大統領は20日のウクライナ訪問を数カ月前から極秘に計画してきた。不測の事態への緊急対応計画を練り、17日に訪問を決断した。ロシア側に事前通告したが訪問中に防空サイレンが鳴り響き、安全へのリスクを物語った。
ジョン・フィナー大統領副補佐官は20日、記者団にウクライナの首都キーウ(キエフ)訪問に関し、バイデン氏に同行したのは「極めて少数だった」と説明した。安全に配慮し、側近の数人と医療チーム、カメラマン、警護隊に限定した。
ホワイトハウスや国防総省、シークレットサービス(大統領警護隊)、情報機関のごく一部で数カ月前から訪問計画や緊急時の対応計画を作成した。バイデン氏は17日に安全保障担当の高官らと協議し、キーウ訪問を最終決定した。
サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)はウクライナ訪問をロシアに事前通告していたと明らかにした。「衝突回避の目的だった」と話し、ロシア側の反応に関してはコメントを控えた。
米大統領は米軍が駐留するアフガニスタンやイラクなどを予告せずに訪問してきたが、ウクライナに米軍は駐留していないため治安を管理しにくい。バイデン政権は最悪の事態を避けるためロシアへ事前通告が必要だと判断したとみられる。
ホワイトハウスは同行記者を通常の10人以上から2人に限定した。同行記者に送った訪問予定を記したメールの件名は「ゴルフ大会の到着案内」と偽装。首都ワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地で記者から携帯電話を回収し、情報漏洩に細心の注意を払った。
バイデン氏は米東部時間19日午前4時15分(日本時間19日午後6時15分)に同空軍基地を出発した。ドイツのラムシュタイン空軍基地での給油を経て、ポーランド南東部のジェシュフ・ヤションカ空港に到着した。そこから車で1時間の距離にあるウクライナ国境付近の駅に向かった。
電車に乗り換えて暗闇のなかを約10時間かけてキーウに移動し、現地時間20日午前8時(日本時間20日午後3時)ごろに着いた。バイデン氏は80歳と最高齢の米大統領で、米紙ニューヨーク・タイムズは「骨の折れる旅路だった」と指摘した。
バイデン氏はキーウ市内でゼレンスキー氏と握手を交わすと、記者団からキーウ訪問の意義を問われた。今回が8回目の訪問だと触れて「来るたびにその意義は大きくなっている」と強調した。「(米国は)ここにいる。我々は離れない」と語り、ウクライナとの連帯をアピールした。キーウ滞在は約5時間だった。
サリバン氏は記者団に対し、会談について「今後数カ月の戦闘や戦闘で勝利するために必要な能力について議論した」と語った。国防総省は20日、ウクライナへ4億6000万ドル(約620億円)相当の武器を追加供与すると発表した。高機動ロケット砲システム「ハイマース」に搭載する弾薬や防空偵察レーダーを含んでいる。
バイデン氏のキーウ滞在中にも防空警報が鳴り響いた。隣国ベラルーシからロシア軍の戦闘機が飛び立ったためという。ベラルーシからミサイルが発射されると20分以内にキーウへ届く距離とされ、ウクライナが戦時下であることを象徴した。CNNテレビによると、ウクライナ東部では20日も断続的にロシアの砲撃が続いた。
バイデン氏は再び電車でポーランド国境まで戻り、首都ワルシャワに着いたのは現地時間20日午後11時10分(日本時間21日午前7時10分)ごろだった。
バイデン氏は21日、ワルシャワで侵攻をめぐる包括演説に臨む。侵攻から1年の節目を控え、ウクライナ支援の機運を再び盛り上げ、民主主義陣営の結束を固める狙いがある。バイデン氏は世界が民主主義と強権主義の競争に直面していると公言する。ウクライナ侵攻の結末は民主主義の行方も左右すると位置づける。
Nikkei Online, 2023年2月22日 4:43更新
【ワルシャワ=中村亮】バイデン米大統領は21日、ポーランドの首都ワルシャワで演説した。「ウクライナに対する我々の支援は揺らがない」と断言し、長期支援を約束した。「強権主義者の欲望に譲歩してはならない」とも語り、民主主義陣営とともに対抗すると訴えた。
ロシアによるウクライナ侵攻から1年の節目を前に演説した。侵攻からの1年間を振り返り、ウクライナに関し「存続している。何よりも自由なままだ」と持ち上げた。「(ロシアの)プーチン大統領の領土や権力への臆病な欲望は失敗し、自国に対するウクライナ国民の愛情が勝利する」と言い切った。
ウクライナへの軍事や経済、人道支援で世界の結束を訴えた。「北大西洋条約機構(NATO)は分断しない。我々は(ウクライナ支援に)飽きない」と言明した。「ロシア侵攻で試されているのはウクライナだけではない」と指摘。「すべての民主主義国家が試されている」と強調した。
「強権主義者はノーという言葉しか理解しない。(強権主義者に)国や自由、将来を奪うことはできないとはっきり言おう」と呼びかけた。「次の5年間に下す決断は数十年間に渡る私たちの生活を形づくる」と語り、世界が民主主義の修復に向けて取り組むよう促した。
バイデン氏は中国やロシアを強権主義陣営と位置づけ、世界は民主主義陣営と競争状態にあるとみる。ロシアがウクライナで勝利すれば強権主義の台頭を許し、第2次世界大戦後につくったルールに基づく国際秩序が揺らぐと懸念する。
バイデン氏は「ウクライナがロシアの侵略に抵抗し、反転攻勢を続けるなかでつらく、とても苦痛の日々が続く」とも話した。戦闘が長期化すればウクライナの犠牲者が増え続ける可能性も高く、現実を直視するように求めたものだ。