シンガポール首相「世界は分断」「侵攻は危険な前例」

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Nikkei Online, 2022年5月26日 12:18更新


アジアの政治や経済について討議する、第27回国際交流会議「アジアの未来」(日本経済新聞社主催)が26日午前、都内で開幕した。シンガポールのリー・シェンロン首相は会場で講演し、ロシアによるウクライナ侵攻や米中の貿易対立で「世界は分断されている」と危機感を語った。

リー氏はロシアのウクライナ侵攻について「国連憲章に反するもので、国際法に明確に違反する」としたうえで「世界秩序に大きな脅威を与えている」と述べた。「シンガポールのような小国の安全と存続を脅かす危険な前例だ」とも指摘した。「平和と安定を維持し、紛争の可能性を減らすために、アジア各国が事前に協力する方法を考えていくべきだ」と強調した。

米国と中国の間の貿易戦争など米中関係の悪化は「アジア太平洋地域にも影響している」と述べ、「アジア諸国が2つの陣営に分断されているようでは良い結果は得られない」との見解を示した。緊張関係が今後も続けば「技術やサプライチェーン(供給網)の分断がさらに進み、予期せぬ結果を招くことになる」と危機感を示した。

シンガポールは23日に米国主導で発足したインド太平洋経済枠組み(IPEF)に参加した。米国はIPEFに関税交渉を含めず、議会の承認を不要とした。

リー氏は「IPEFには貿易自由化や市場アクセスは含まれなかった。従って(米国が参加していない)環太平洋経済連携協定(TPP)の代わりにはならない。いつの日か米国の政治状況が許せば、IPEFが米国とアジアのパートナーを含む自由貿易協定(FTA)につながることを期待している」と語った。

シンガポールはTPPの2022年議長国を務めている。TPPに加盟を申請した中国については「経済的影響力は大きく、拡大している」と述べた。広域経済圏構想「一帯一路」などを例示したうえで、「中国が建設的かつ互恵的な方法でパートナーに関与することを期待する」と語った。

シンガポールでは独立以来、人民行動党(PAP)が一貫して政権与党の座を占めており、首相の在任期間も長期化している。同国の民主主義のあり方について問われたリー氏は「シンガポールでうまくいくことをやっているだけだ」と述べたうえで、「これから先の選挙でどうなるかは分からない。だが、私と私のチームの今の責任はシンガポールをきちんと統治することだ」と語った。

アジアの未来は27日までの2日間。今回のテーマは「分断された世界をつなぐ、アジアの新たな役割」。米中貿易戦争やロシアによるウクライナ侵攻を受けて世界が分断されることへの危機感が強まるなか各国の首脳や閣僚、第一線の有識者らがアジアの担う役割について議論する。