Nikkei Online, 2023年3月11日 6:32更新
【ドバイ=福冨隼太郎】イランとサウジアラビアの国営メディアは10日、両国政府が2カ月以内に外交を正常化し、双方の大使館を再開することで合意したと伝えた。中国が両国を仲介した。中東の緊張緩和につながると期待される。中国主導による中東の大国の和解実現は米国の指導力低下を印象づけ、長期的には世界秩序を揺さぶるリスクとなりかねない。
イラン国営通信によると、両国は中国の仲介のもとで北京で協議を開いた。イラン側からは外交や国防を統括する最高安全保障委員会のシャムハニ事務局長らが交渉にあたった。イラン、サウジ、中国の3カ国が出した共同声明のなかで「主権の尊重と互いの内政への不干渉を強調する」と表明したと伝えた。
サウジ国営通信も同日、両国が国交を正常化すると伝えた。サウジのファイサル外相とイランのアブドラヒアン外相が近く会談する見通しだ。
両国の対立はイエメンやシリアなどの内戦に影を落とし、イラク復興の足かせともなってきた。2019年にはイランによるとされるサウジ国営石油会社サウジアラムコの石油施設への攻撃もあり、世界のエネルギー市場を揺さぶった。
イスラム教スンニ派が主流のサウジとシーア派大国のイランは中東の覇権を巡り対立を続けてきた。16年にサウジがシーア派指導者を処刑したことにイランが反発。テヘランのサウジ大使館襲撃をきっかけに両国は断交した。
米国は両国の外交正常化をひとまず歓迎する姿勢をみせている。だが24年の次期大統領選への出馬を模索するバイデン大統領にとっては大きな痛手だ。
トランプ前大統領は政権末期にイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)など一部アラブ国との国交正常化を演出し、中東外交で大きな成果を残した。インフレ対策で産油国の協力を必要としたバイデン氏はサウジの説得を試みたが、空振りに終わった。
両国は21年から関係改善に向けた協議を事務レベルで続けてきた。22年12月にはファイサル氏とアブドラヒアン氏がヨルダンで会談。アブドラヒアン氏は会談後、ツイッターに「ファイサル氏はイランとの対話を継続する意思があると明らかにした」などと投稿していた。
中東への優先度が低下している米国に対するサウジの不信感は根深い。それが中国主導の和解案に乗った背景となった。サウジとの和解を模索していた伝統的な親米国のイスラエルも、拡大する中国の影響力を前に戦略転換を迫られる可能性がある。
イランは米国の離脱で機能不全に陥っている核合意を再建し、欧米の経済制裁解除を目指している。ただ再建をめぐる米国との交渉は停滞しており、欧米は核開発を進めるイランへの警戒を強めている。9日にはオースティン米国防長官がイスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相らと対イラン協力強化で一致していた。
石油生産が増えた米国は中東への関与を近年減らした。中国やロシアが米国の「空白」を突いて影響力の拡大に動いた。