Nikkei Online, 2026年2月6日 5:00

人工知能(AI)が軍事大国である米国の軍事戦略と防衛産業、そして戦争と平和のあり方そのものを変えようとしている。
数千の無人兵器を台湾海峡に展開して「無人の地獄絵図(unmanned hellscape)」をつくり、中国の台湾占領を食い止める――。米インド太平洋軍のパパロ司令官が2024年6月に明らかにした防衛作戦の計画は当時「絵空事」との見方もあった。だが技術革新が進んだ現在、急速に現実味を帯びつつある。
米首都ワシントンで25年10月、米連邦議会議員や米国防総省の幹部を前に、あるAI兵器の開発計画が披露された。「X-BAT(エックス・バット)」と呼ばれる次世代の戦闘機だ。
エックス・バットは全地球測位システム(GPS)や外部との通信を必要とせず、「AIパイロット」が自律的に判断して動く。世界で初めて完全無人、かつ滑走路を必要としない垂直での離着陸を可能にした。

搭載できる兵器も多様で、戦闘機同士の空中戦、地上施設への攻撃のどちらにも対応できる。製造・運用にかかるコストは米軍の最新型戦闘機「第5世代」のF35などに比べ、10分の1におさまるという。
「敵対勢力は、我々が決定的な優位性を持つと理解することになる」。エックス・バット開発の責任者、アーマー・ハリス氏は出席者にこう語りかけた。開発したのは西部カリフォルニア州を拠点とし、ドローンの自律飛行ソフトを開発する新興の米シールドAIだ。
滑走路を必要としないエックス・バットは、これまで航空戦力の展開が難しかった台湾周辺の無人島などにも配備できる。シールドAIは28年に任務遂行能力の試験飛行を目指す。25年9月には台湾の防衛能力の強化をうたい、防衛・航空大手の漢翔航空工業(AIDC)と提携した。

24年夏まで米国防総省で次官補代理を務めていたマイケル・ホロウィッツ氏は「無人の地獄絵図」計画にはエックス・バットだけでなく「AI搭載の無人水上艇・水中艇、さらに片道切符の長距離型攻撃ドローンの開発が重要だ」と説く。
米国や同盟国などが積極投資を進めれば「今後2年以内に(AI搭載兵器の)実戦配備が可能」になるというのがホロウィッツ氏の見立てだ。「実現すれば(中国による)台湾侵攻を著しく困難にする可能性がある」と予測する。
米国ではAIの広がりが、軍需産業のあり方も変えようとしている。
国防総省は26年会計年度でAI関連予算に134億ドル(約2.1兆円)を求めている。22年会計年度と比べ、およそ6倍に増えた。
今後も拡大は止まらない見通しだ。米調査会社グランドビューリサーチの推計では、世界の軍事用AI市場は25年から30年にかけて年平均13%のペースで伸びる。
米国ではシールドAIのほか、データ分析のパランティア・テクノロジーズ、自律走行車のアンドゥリル・インダストリーズなどが急成長し、軍事専業の独占市場に風穴を開けつつある。ロイター通信によると、新興AI企業の国防総省との契約は25年にほぼ倍増し、全体に占める割合も0.6%から1.3%に高まった可能性がある。
冷戦終結時に国防総省の元請け企業は約50社あったが、今では8割強を主要5社が独占する。米ソが激しく軍拡競争した冷戦が終わると、米国の軍事産業は専業大手に事業を売却・集約する流れが続いてきた。

専業大手による寡占の結果、民間の技術革新が軍事部門に生かされにくい非効率な産業構造や官僚体質が定着したとの指摘がある。ヘグセス国防長官は25年12月、中国の軍事力に対抗するには「一握りの大手軍事企業が産業を支配する文化」を改めなければいけないと宣言した。
国防総省が1月に発表した国家防衛戦略は、防衛産業基盤改革を最優先項目のひとつに掲げた。いつもはトランプ政権に批判的な米メディアも「(改革が実現すれば)第2次トランプ政権の最大の成果になり得る」(米紙ウォール・ストリート・ジャーナル)と評価する。
AIの軍事利用を進めているのは米国だけではない。中国の国有防衛大手、中国兵器工業集団は25年2月、時速50キロで自律的に戦闘支援任務を遂行できる軍用車両を公表した。
米シンクタンク、新アメリカ安全保障センター(CNAS)のステーシー・ペティジョン氏は「中国がかなり幅広く無人システムを開発し(群れで動く)協調型ドローンの開発に一貫して注力しているのは懸念材料だ」と指摘する。

米中のAI軍拡競争はどこに行き着くのか。
「AI戦争は人類の存続を危険にさらす恐れさえある。人間だけによる戦闘シミュレーションと比べ、AIモデルでは核戦争を含め、戦争が突然エスカレートする傾向があることがわかった」
米軍制服組トップの統合参謀本部議長を務めたマーク・ミリー氏と米グーグル元最高経営責任者(CEO)のエリック・シュミット氏による米誌フォーリン・アフェアーズへの24年の寄稿は、いまでも軍事・外交の専門家に重い問いを投げかける。
人間であれば最低でも2日かかっていたような作戦策定に向けたシナリオ分析が、1分以内でできることが分かってきた。人間なら二の足を踏むような人的被害を生む攻撃も、AIはためらわない可能性がある。

それでも米中ともに、AI兵器を規制する国際ルール作りには消極的だ。米シンクタンク、ブルッキングス研究所のケビン・デソウザ氏はトランプ政権のAIの軍事利用について「過去の政権と比べて透明性が低い」とも指摘する。
AIがどこまで軍事に入り込もうとしているのか。攻撃などの意思決定にまでAIが深く関与したとき、人間にそれを止めることはできるのか。人間には見えない場所で、AIによる戦争のリスクが増幅している可能性がある。
(ワシントン=飛田臨太郎)
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