「地位」に目覚めるアフリカ 国際秩序の行方を左右

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Source: Nikkei Online, 2023年9月10日 5:00

就任式典で手を振るナイジェリアのティヌブ大統領(5月29日、アブジャ)=ロイター

世界最速で人口が増えるアフリカ諸国が、国際社会における「地位」を自覚し始めた。国際会議で相応の発言機会を求め、国際的な課題解決でも役割を果たそうとする。分断が深まる世界におけるアフリカの目覚めは、新しい秩序の行方をも左右する。日本を含む民主主義陣営はこれにどう向き合えばいいのか。

20カ国・地域(G20)は9日にニューデリーで開幕した首脳会議(サミット)で、アフリカ連合(AU)を正式なメンバーに加えることで合意した。G20の会議が重要なのは議場で交わされる言葉ではなく、成果としての文書でもなく、むしろ非公式なリーダーの交錯が生み出すエネルギーにある。

グローバルサウスの雄

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席の姿はない。代わって注目されるのは、ある非加盟国の指導者だ。アフリカ最大の経済国ナイジェリアで5月に就任したばかりのティヌブ大統領である。

ティヌブ氏はG20への加盟申請を検討しているとし、会議に足を運んだ。ナイジェリアの重要性を認める各国の首脳はティヌブ氏と真剣に話し合おうとするだろう。

グローバルサウスとよばれる新興・途上国のなかでも、アフリカの潜在力は群を抜く。欧米だけでなく中国やロシアも高齢化が進むが、若いアフリカの人口はどんどん増えていく。天然資源にも恵まれ、ダイナミックな成長が期待されている。

ナイジェリアでは大統領選挙後、国民の多くが旧来の政治の継続を予想していた。ところが、ティヌブ氏は政権の座に就くや矢継ぎ早に革新的な政策を打ち出した。燃料補助金の廃止など大胆な経済改革を表明したほか、隣国ニジェールで起きたクーデターを批判し介入を示唆した。

究極の目標は常任理事国入り

G20に参加するアフリカの国は南アフリカのみだ。最大の経済国であるナイジェリアなどアフリカ諸国が、国際会議で相応の地位を与えられていないことに不満をもつのは当然だ。ナイジェリアや南アの究極の目標は国連の安全保障理事会の常任理事国入りで、今後の国連改革の議論で主張を強めるのは確実だ。

南アのラマポーザ大統領は6月、他のアフリカ6カ国の首脳らとともにロシアとウクライナを訪れた。ウクライナ危機の解決においても何らかの役割を果たそうとしている。

南アフリカはウクライナ危機の解決に向けて動いた(ラマポーザ大統領)=ロイター

アフリカへの注目が集まっているひとつの理由は、日米欧などの民主主義陣営と、中ロを筆頭とする権威主義陣営がアフリカの国を味方につけようと綱引きを繰り広げているからだ。アフリカは欧米の立場と一線を画す。だが、中ロになびいているわけでもない。アフリカのリーダーたちは大国間の対立に巻き込まれ、翻弄された歴史を脱したいと願っているのだ。

潜在力が高いといっても足元の政治や経済は混乱が続く。7月の西アフリカ・ニジェールに続き、8月には中部ガボンでも軍事クーデターが発生した。ニジェールは原子力発電の燃料となるウラン、ガボンは原油や電気自動車(EV)電池の原料に使うマンガンといった資源をもつが、その恩恵を生かし切れていない。

人的パイプづくりに課題

民主主義陣営がとるべき戦略は、経済が成長を続けるためのベースとなる法の支配や民主主義の制度を固める手助けをし、外国の投資家や経営者のアフリカ市場への信頼を高めていくことだ。長い目でみれば、それが政治の安定にもつながる。民主主義をないがしろにする中国流の支援は、汚職などさまざまな副作用を生み出している。

日本はアフリカ開発会議(TICAD)という会議を開いて関係を強めようとしていた。残念ながらアフリカにおける日本の存在感は極めて限られる。どんな戦略がとられるべきなのか。

ケニア在住のコンサルタントで、アフリカビジネスパートナーズ代表の梅本優香里氏は「中国の手法にも学ぶべき点がある」と指摘する。動機はさておき、中国は独立直後のアフリカが貧しい時期から人的なつながりを強めようとしてきた。「政策当局者や軍人、企業関係者ら多くのエリートが中国で学んだことに注目すべきだ」という。

岸田文雄首相は「アフリカと日本の未来を支えるのは人だ」というが、実態はお寒いかぎりだ。アフリカの市民が日本入国ビザを得るのは極めて困難で、負担の重さから多くの人が断念を強いられているのが現実だ。

まずは門戸を開いて、アフリカの人材をもっと受け入れてはどうだろうか。


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