Source: Nikkei Online, 2023年10月15日 0:00
イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの衝突が、世界に波紋を広げている。ロシアや中国はパレスチナを支援し、欧米を揺さぶる構えをみせる。中東の融和の期待はしぼみ、サウジアラビアとイスラエルの国交正常化は遠のくとの観測が強い。
国連安全保障理事会は13日、ハマスとイスラエルの衝突を巡り非公開で協議したが、具体的な支援策の結論を出せなかった。ロシアが示した決議案はハマスを明確に非難する文言を含まず、即時停戦を主張したとみられる。米英仏などは、民間人を襲い人質に取ったハマスの「テロ」を強く批判しイスラエル支持を鮮明にしており、ロシア案に賛成する見込みは乏しい。
ロシアのネベンジャ国連大使は記者会見で、欧米が国連で中東情勢について公開での会合を要請してこなかったと指摘した。「一方でウクライナ情勢を議論する会合はあらゆる口実を用いて開こうとする」と批判した。
ウクライナ侵攻でただでさえ深刻な安保理の亀裂が深まりかねない。ロイター通信によると、議長国ブラジルはハマスのテロ攻撃への非難を明記した決議案を配布した。
パレスチナ問題をはじめ中東の複雑な情勢は米中ロなど域外の主要国も注視し、影響力を行使してきた。中国の王毅(ワン・イー)共産党政治局員兼外相は13日、国連を通じてガザに緊急援助を提供する意向を示した。王氏は14日、ブリンケン米国務長官と電話協議し、ガザ衝突について議論した。
中国は3月、中東の覇を競う地域大国のサウジとイランの関係正常化を仲介し、米国の不意を突いて中東での存在感を誇示した。バイデン米政権が仲介努力を加速させてきたのが、イスラエルとアラブの「盟主」を自任するサウジとの国交正常化交渉だ。9月には両国の首脳が、正常化は近づいているとの認識を示していた。
ロイター通信は13日、サウジがその交渉を凍結していると報じた。サウジは国交正常化の前提としてパレスチナ問題の解決を掲げていた。今回のハマスとイスラエルの大規模衝突で、アラブ社会はパレスチナに同情的な見方を示している。サウジはパレスチナ人を攻撃するイスラエルとの関係改善を進めることは難しいと判断している可能性がある。
ブリンケン氏は14日、サウジでファイサル外相と会談した。米国務省の声明によると、紛争拡大防止や民間人保護を巡り協議した。イスラエルとサウジの国交正常化も議題になった可能性があるが、声明では触れなかった。
イスラム教の集団礼拝日にあたる金曜日の13日、ハマスの指導者は「怒りの日」と呼んでイスラム教徒らに行動を呼びかけた。ハマスが7日にイスラエルに大規模な越境攻撃をかけてから最初の金曜日だった。
ハマスとイスラエルの衝突は、遠く離れた欧米でも火種になる恐れがある。多民族社会の米国では13日、親パレスチナと親イスラエルの両派が各地でそれぞれ集会や抗議活動を繰り広げ、一部では暴力事件にも発展した。警察は警備を強化している。
フランス政府は13日、北部アラスの高校で発生した教師刺殺事件を受け、テロに対する警戒態勢を最高水準に引き上げた。ダルマナン内相は事件とイスラエル・パレスチナ情勢の緊迫には「おそらくつながりがある」との見方を示した。
仏政府は対立が国内に波及するリスクに神経をとがらせている。ユダヤ系の学校や宗教施設の警備を強化する一方、パレスチナ支持のデモを禁止した。パリのルーヴル美術館は14日、「安全上の理由」で閉館すると発表した。
(久門武史)