中国「弱者の正義」前面 米国主導の「矛盾」突く

激震 中東と世界④

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Source: Nikkei Online, 2023年10月20日 5:00

中国は人道の最優先を訴える(北京で開いた「一帯一路」首脳会議で握手する中国の習近平国家主席㊧とロシアのプーチン大統領、18日)=ロイター

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「イスラエルの行為は自衛の範囲を超えている」。中国の王毅(ワン・イー)外相は14日、サウジアラビアのファイサル外相との電話協議で、パレスチナ自治区ガザを報復攻撃するイスラエルを非難した。

中国はイスラム組織ハマスがイスラエルを攻撃した当初、慎重姿勢だったが、方針は変化した。王毅氏は15日、イランやトルコの外相とも立て続けに電話協議し「人道」を前面に出しつつ積極関与に乗り出した。

背景には情勢の変化がある。民間人を巻き込んだ報復を辞さないイスラエルを前に、アラブ諸国は強硬姿勢をとり始めた。サウジのムハンマド皇太子はイランのライシ大統領と11日、異例の電話協議を行い「パレスチナへの戦争犯罪を止める必要性について」(国営イラン通信)議論した。

中国とパレスチナの関わりは深い。1965年にパレスチナ解放機構(PLO)の地位を認め88年にPLOが国家独立を宣言すると5日後に承認した。92年にはイスラエルと国交を樹立して関係を深めたがパレスチナの独立運動や国連加盟は一貫して支持してきた。

こうした外交方針は米中対立が先鋭化するにつれ、米一極体制への対抗軸の一つに浮上した。

パレスチナ問題は今、中国外交で2つの使命を担う。一つは習近平(シー・ジンピン)国家主席による「中国の特色ある大国外交」の実践だ。「国際社会・地域の火種となる問題の平和解決推進」の柱として中立を強調しパレスチナ和平仲介にも意欲を示してきた。

現実には中国が役割を果たすのは難しい。サウジなどアラブ諸国は米国の安全保障に依存する。アフガニスタン撤退で対米不信を強めた後も構図は変わらず、中国には複雑な問題を扱うだけの地域へのコミットメントはない。3月にサウジとイランの国交正常化を仲介したがそれも両国が接近していた背景があった故だ。

もう一つの使命は、中国が世界秩序を作り変えていくうえでの「ナラティブ(物語)」としての役割だ。

「米国はパレスチナのイスラム教徒の命も大事なのだと気づくべきだ」。21年にイスラエルとパレスチナが衝突した際、中国はこう非難した。中国は「米国こそが世界に混乱と分断をもたらした」と訴え、長く弱者の立場にあった「グローバルサウス」の国々に共感と結束を呼びかけている。

米国を後ろ盾とするイスラエルが今、圧倒的に非対称な武力でパレスチナ市民をガザから追いやれば「力による現状変更をしているのは米国だ」との中国の攻勢は勢いを増すだろう。

もちろん中国の主張は矛盾に満ちている。国内では統制が激化し、台湾には武力行使を辞さない方針だ。多極主義で強調する内政不干渉は圧政下の個人から救済の道を奪いかねない。

その一方で貧困や紛争に苦しんできたグローバルサウスの国々が西側の「正義と公平」が抱える矛盾を感じているのも事実だろう。

パレスチナ問題を一朝一夕に解決するのは困難だ。それでもせめて「報復と悲劇の連鎖」を断ち切る努力を最優先とする――。それができなければ世界も民主主義陣営も中国の戦略にからめとられる恐れがある。

(中国総局長 桃井裕理)

=おわり

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