ウクライナ戦争、同じ技術ゆえの膠着(The Economist)

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Source: Nikkei Online, 2023年11月7日 0:00

ウクライナ軍が攻勢に転じて5カ月たつが、進軍した距離は17キロメートルにとどまる。ロシア軍はウクライナ東部の「6キロメートル四方の町」バフムトを占領しようと10カ月戦った。

ウクライナのザルジニー総司令官は「今日の技術の進化が敵と味方の双方を立ち往生させている」と言う
=ゲッティ共同

ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官は先週、本誌(The Economist)によるインタビューで、反転攻勢について初めて総合的な評価を示し、1世紀前の大戦を彷彿(ほうふつ)させる状況だと述べた。

「第1次世界大戦の時と同様、技術の進化が戦局を膠着させる事態になっている」とし、この打破には大きな技術的飛躍が不可欠としながらも、「戦況を一変させるような大きな美しい打開は恐らく起きないだろう」とも語った。

もはやプーチン大統領を交渉に引きずり出すのも難しい

欧米諸国はウクライナの反転攻勢でロシアに勝ち目がないことを示し、プーチン大統領を交渉に引きずり出すことを期待していたが、戦況をみる限りその望みは薄まった。兵士の死傷者が増えればロシア軍を止められるというザルジニー氏の思惑も外れた。

「私のミスだ。ロシア側の死者は少なくとも15万人に達する。それだけの犠牲を出せば、他のどんな国も停戦しただろう」と同氏は言う。だがロシアは違う。同国では人命は安く、プーチン氏の判断基準は数千万人の戦死者を出した第1次、第2次大戦だ。

ウクライナ級の軍隊ならロシアが守る前線を突破し、1日30キロメートルのペースで進軍できたはずだった。「北大西洋条約機構(NATO)の教則本の試算に基づけば4カ月でクリミアに進軍し、交戦し、帰還し、再出撃し、かつ撤退が可能なはずだった」とザルジニー氏は苦々しげに語った。

だがバフムト手前の地雷原で立ち往生しており、欧米に提供された兵器はロシア軍のミサイルやドローン(無人機)の攻撃を受けている。南部で展開する主要な攻撃作戦でも似た状況で、経験の浅い部隊はすぐに劣勢に陥った。

「敵の動きをすべて把握できるが、
敵も我々の行動すべてを把握できる」

「当初は司令官に問題があると考え、一部の司令官を交代させた。次に目的にかなう兵士が配備されていないと考え、部隊の兵士を一部異動させた」とザルジニー氏。それでも難局を打開できなかった。そのため学生時代に読んだある書籍を側近に探させた。1941年に出版されたソ連軍のP・S・スミルノフ少将による第1次大戦の分析で、「Breaching Fortified Defence Lines(強固な防御線の突破)」という本だ。

「半分も読み終えないうちに現状とそっくりだと気づいた。今日の技術の進化が敵と味方の双方を立ち往生させている」と同氏は言う。

ザルジニー氏は東部アウディイウカの前線を訪れ、自説が正しいと確信したと言う。ロシア軍は同地に部隊2つを投入し、この数週間で数百メートル進軍していた。「かの地でモニター画面からロシア軍の140の兵器が、我が軍のミサイル射程圏に入って4時間で破壊されるのを見た」と語り、攻撃を免れた兵器は、ドローンのカメラが映している光景を操縦者が見られるFPV(機体前方カメラ)ドローンに爆発物を搭載し、追跡して破壊した。ウクライナ軍が進軍する場合も同じ状況が展開される。

ザルジニー氏は、兵力の集結を察知するセンサー機器や、その兵力を破壊する精密兵器が使われる今の戦争をこう説明する。「敵の動きをすべて把握できるが、敵も我々の行動すべてを把握できる。よってこの膠着を打開するには新しい何かが必要だ。中国が発明し、今も相手を殺すのに使う火薬のような何かだ」

来年受け渡される戦闘機F16も今や重要性は薄れた

ただ、今回の戦争を決するのは何か一つの新発明によってではないと言う。ドローンから電子戦、地雷除去機、火砲攻撃への対抗策、ロボット工学のすべてを革新し、かつそれらを結集させた画期的な何か打開策が必要だと指摘する。

西側同盟諸国は、最新技術や高性能兵器の供与に慎重になりすぎた。バイデン米大統領がロシアによる侵攻開始当初に設定した目標は、ウクライナを敗戦には至らせないが、ロシアとの対立に米国を巻き込まないことだった。つまり西側は兵器をウクライナが戦争を継続できる程度に供与しても、勝利するほどは提供してこなかった。

ザルジニー氏は不満は述べていない。「西側が何かを我々に供与する義務はない。受け取ったものについて感謝している。私は事実を述べているだけだ」

だがウクライナが2022年末に北東部ハルキウ州と南部ヘルソン州で領土を奪還した際、西側が長距離ミサイルシステムと戦車の供与を躊躇(ちゅうちょ)したことでロシアに防衛の立て直しと増強を許した。「昨年は長距離ミサイルと戦車を最重要視していたが、届いたのは今年だ」と同氏は言う。

来年受け渡される戦闘機F16も重要性が薄れたと彼はみる。一因はロシアが防空体制を強化したからだ。今やロシア製の地対空ミサイルシステム「S400」の試作機は、ウクライナ東部ドニプロの先まで射程圏内に入るとザルジニー氏は言う。

「1世代前の兵器と時代遅れの戦法では勝てない戦争だ」

同氏は兵器供与の遅れは歯がゆいが、それが自国が窮地に陥った理由ではないとする。「1世代前の兵器と時代遅れの戦法では、この戦争には勝てないと理解することが重要だ」と指摘する。「このままでは長期戦は必至で、そうなれば敗戦が濃厚になる」

米グーグルのシュミット元最高経営責任者(CEO)と先日話したことを熱く語った同氏は、技術こそ切り札になるとしてドローンとドローン飛行を阻止できる電子戦が決定的役割を担うと強調する。

もっともザルジニー氏の認識は厳しく、ドローンも電子戦も現段階では技術革新の兆しはないとみる。第1次大戦では1917年に戦車が登場しても一進一退の戦況が打開されることはなかった。複数の技術を駆使し、戦術的な革新を10年以上重ねた末、第2次大戦の40年5月のドイツ軍の電撃戦につながった。

つまり、ウクライナは身動きがとれない長期戦に陥った可能性があり、それは彼も認めている通りロシアに有利ということだ。それでもたとえ1日に数メートルしか進軍できずとも、ウクライナは攻勢を続け、戦闘の主導権を握り続けるしかないと言う。

ザルジニー氏は、クリミアを今もプーチン氏最大の弱点とみる。プーチン氏は2014年、クリミアをロシア領に戻したことで大統領としての正当性を維持している。

ウクライナはこの数カ月、今もロシアにとって物資補給の重要拠点であるクリミア半島に戦場を広げた。10月30日には初めて米国供与の長射程ミサイル「ATACMS」でクリミア半島を攻撃。ザルジニー氏は「クリミアはウクライナの一部であり、そこが戦場になっていることを知らしめる必要がある」と話す。

塹壕戦阻止せねば兵力が尽きるリスク

ザルジニー氏は塹壕(ざんごう)戦の長期化を阻止したい考えだ。「消耗の激しい塹壕戦の最大のリスクは何年も長期化し、ウクライナの国力が疲弊することだ」と言う。第1次大戦は技術が戦況を決する前に4つの帝国が崩壊し、ロシアで革命が起きるという政治的事情が影響し終結を迎えた。

プーチン氏はウクライナの士気低下と西側の支援停止を当て込む。ザルジニー氏の考えでは長期戦になればロシア有利になる。ロシアはウクライナの3倍の人口を抱え、経済規模は10倍だ。「正直に言えばロシアは封建国家で、国家資源では人命が最も安い。だがウクライナは国民が最も貴重な資源だ」。兵士の数は当面は足りるが、長期戦になるほど戦争の継続は難しくなる。

「今直面している課題の打開策を探し、かつての火薬に匹敵する解決策を手にしたら、その使用法を早急に習得し早期に勝利する必要がある。兵士の数が早晩足りなくなるからだ」

(c) 2023 The Economist Newspaper Limited. November 4, 2023 All rights reserved.


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