トランプ氏、戦争終結へ交渉開始 プーチン氏と合意

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Source: Nikkei Online, 2025年2月13日 3:59更新

トランプ米大統領はロシアのプーチン大統領と電話会談した=AP

【ワシントン=坂口幸裕】トランプ米大統領は12日、自身のSNSでロシアのプーチン大統領と電話協議したと明らかにした。ロシアによるウクライナ侵略を巡り、直ちに戦争終結に向けた交渉を始めることで合意した。両首脳による相互訪問を含め緊密に協力する方針でも一致した。

トランプ氏「直ちに交渉を開始」

トランプ氏は12日、SNSに「プーチン氏と長時間にわたり充実した電話をした。ロシアとウクライナの戦争が引き起こす大勢の死を止めたいとの考えで一致した」と表明した。「それぞれの国の強みと、いつか協力することで得られる利益について話し合った」とも記した。

プーチン氏と「それぞれのチームに直ちに交渉を開始させることで合意した」と言明した。ルビオ国務長官、米中央情報局(CIA)のラトクリフ長官、ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)、ウィットコフ中東担当特使に交渉にあたるよう指示した。

トランプ氏は12日、ホワイトハウスで記者団に、プーチン氏との最初の会談は「おそらくサウジアラビアになると思う」と話した。日程については「それほど遠くない将来だ」と述べるにとどめた。

ゼレンスキー氏とも電話協議

トランプ氏はウクライナのゼレンスキー大統領とも協議し、プーチン氏との電話内容を伝えた。SNSで「ゼレンスキー氏もプーチン氏と同様に平和を望んでいる」と唱えた。

14〜16日にドイツのミュンヘンで開く安全保障会議も議題になり「会議の結果が前向きなものになると期待している」とつづった。同会議には米国からバンス副大統領、ルビオ米国務長官らが出席する。

ゼレンスキー氏は12日、X(旧ツイッター)に「米国とともにロシアの侵略を阻止し、永続的で確実な平和を確保するための次のステップを計画している」と書き込んだ。トランプ氏とは「安全保障や経済協力、資源パートナーシップに関する新しい文書の準備」が議題になったという。

接触を継続、対面での会談探る

ロシアのペスコフ大統領報道官は12日、プーチン氏とトランプ氏が同日の電話協議で「ウクライナ問題の解決について話しあった」と記者団に述べた。協議は1時間半に及んだという。

ペスコフ氏は「プーチン氏は紛争の原因を取り除く必要性に言及し、平和的な交渉によって長期的な解決に向かうことができるという点でトランプ氏と合意した」と説明した。

ロシア大統領府の同日の発表によると、プーチン氏はトランプ氏をモスクワに招待した。両首脳は対面での会談の開催を含め、接触を継続すると確認した。

トランプ氏はSNSで「この取り組みができるだけ早期に成功裏に結論に達すると信じている」と記した。「私が大統領であれば起こらなかった戦争で、何百万人もの人が亡くなった。 これ以上、命を失ってはならない!」と投稿した。

電話協議ではイランの核開発疑惑を含む中東情勢のほか、エネルギーや人工知能(AI)政策、ドルの信認などについても議題になった。

ロシアは11日、拘束していた米国人マーク・フォーゲル氏を解放した。米ホワイトハウスは声明で「ロシアの誠意ある対応」と評価し、ウクライナ停戦に向け「正しい方向へ進んでいる兆候だ」と誇示した。トランプ氏はSNSでフォーゲル氏解放についてプーチン氏に謝意を示した。

ロシアは領土割譲要求、交渉は難航か

2022年2月24日にロシアがウクライナへの侵略を始めてからまもなく3年になる。24年11月の大統領選で勝利したトランプ氏は早期の戦争終結を事実上の選挙公約に掲げ、ロシアとの直接交渉による停戦仲介に意欲を示してきた。

戦争終結に向けた交渉を巡っては、トランプ政権がロシアとウクライナ双方に譲歩を促してきた。ロシアは実効支配している領土の割譲などを要求する構えで、交渉は難航が予想される。

ヘグセス米国防長官は12日、14年にロシアが併合したウクライナ領クリミアを含む領土奪還をめざすウクライナの主張について「非現実的な目標だ」と断言した。訪問先のベルギーでウクライナ支援を巡る関係国会合で演説した。

ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟も認めない方針を示した。NATOは全加盟国の同意を前提に各国の判断で加盟できる「門戸開放」政策を採ってきた。ウクライナの加盟阻止を求めるプーチン氏の要求を取り入れる事実上の修正になる。

一方、ロシアによる再侵略を抑止するため、米国と欧州によるウクライナへの武器供与を継続する必要性も提起する。トランプ氏は巨額の財政負担となるウクライナ支援を続ける条件としてレアアース(希土類)の供与を同国に求める。

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トランプ政権、ロシアと直接協議へ転換
 ウクライナ打撃

Source: Nikkei Online, 2025年2月13日 8:46更新

米ロ首脳は相互訪問をすることでも合意した(2018年7月、
フィンランドで開いた会談で握手するトランプ氏㊧とプーチン氏)=AP

【ウィーン=田中孝幸】トランプ米大統領がロシアが侵略するウクライナでの戦争終結に向け、ロシアのプーチン大統領との直接交渉に乗り出した。12日には電話協議を開き、即座に戦争終結に向けた交渉を開始することで合意した。両首脳による相互訪問を含め緊密に協力し、関係正常化を目指す方針でも一致した。

米国はバイデン前政権時にはウクライナ抜きの協議に反対してきたが、今回の電話で融和路線への転換を鮮明にした。トランプ政権内ではウクライナに厳しい案が浮上しており、今後の交渉ではプーチン氏が目指すウクライナの属国化の試みを米側がどれだけ阻むかが焦点になる。

「プーチン大統領がこの電話に要した時間と努力を感謝したい」。トランプ大統領は12日、SNSへの長文の投稿でプーチン氏との「極めて生産的な電話」の後の興奮をあらわにした。

ロシアのペスコフ大統領報道官の発表によると協議は1時間半にわたり、プーチン氏は「両国が協力すべき時が来たという米大統領の主張」を支持する意向を示した。トランプ氏の訪ロも招請した。

トランプ氏とプーチン氏、まずサウジアラビアで会談へ

両首脳が会談を含め、直接協議を継続することでも合意した。トランプ氏は12日、記者団にプーチン氏とまず第三国のサウジアラビアで会談するとの見通しを示した。約3年にわたるロシアのウクライナへの侵略や残虐行為の責任問題を棚上げして関係正常化を目指すことで合意した格好だ。

トランプ氏はこの直後、ウクライナのゼレンスキー大統領と約1時間電話し、プーチン氏との電話協議の内容を伝えた。同国への一定の配慮を示す狙いがあったとみられるが、ゼレンスキー氏が負った政治的な打撃は大きい。同氏はXにトランプ氏と「有意義な会話をした」と投稿した。

プーチン氏は第2次トランプ政権の発足後、対米協議の実現に向け、トランプ氏への賛辞を繰り返すなど秋波を送ってきた。トランプ氏と有利な戦争終結案で合意すれば、欧州やウクライナに押しつけられると判断しているためだ。

米政府の11日の発表によると、ロシアは21年から拘束していた米国人男性の解放に踏み切った。トランプ氏は男性の解放がウクライナ停戦に向けて「非常に重要な要素になり得る」と評価し、プーチン氏への謝意を表明していた。

一方、プーチン氏は2日公開のロシア国営テレビのインタビューで欧州の指導層について「すぐにトランプ氏が秩序をもたらし、彼らは主人の足元に立って尻尾を振るだろう」と語った。米国の軍事援助に深く依存しているウクライナも米国の属国とみなしてきた。

プーチン政権の工作が奏功しているのは否定できない。これまでロシアの侵略に厳しい姿勢で臨んできた欧州の一部でも対ロ融和論が勢いを増しており、トランプ政権がロシアに大幅な譲歩をした場合に阻むのは難しくなっている。

トランプ政権内では交渉開始前の現段階ですでに、ロシアに配慮した戦争終結案が浮上している。

ウクライナに譲歩求める圧力も

訪欧中のヘグセス米国防長官が12日、戦争終結に向けた方針を発表した。①ロシアが反対してきたウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟の断念②停戦ラインへの米軍抜きの欧州平和維持部隊の配備③ウクライナによる領土面の譲歩④欧州によるウクライナ防衛の枠組みの構築、を柱とする。

いずれも将来の再侵略を抑止するための米国の関与を求めてきたゼレンスキー氏が反対する内容だが、トランプ政権には同氏への配慮はみられない。ヘグセス氏はウクライナの全土奪回について「非現実的な目標だ」との認識も示した。

こうしたロシアに融和的な戦争終結案が交渉の出発点になれば、さらにウクライナに譲歩を求める圧力が高まることも想定される。

ペスコフ氏によると電話協議でプーチン氏は「紛争の根本原因を取り除く必要性を強調し、和平交渉を通じて長期的な解決が達成できる」と語った。目標としてきたウクライナの事実上の属国化を引き続き求める立場を示したものだ。

ウクライナは東部でロシア軍の昨夏以来の攻勢を受けて徐々に支配地域を失いつつある。米戦争研究所によると24年の1年間でロシア軍は新たにウクライナの4168平方キロメートルの領土を支配下に置いた。

これは面積で東京23区の約7倍に相当するが、ウクライナの国土全体の0.7%に過ぎない。プーチン氏が目標に掲げるウクライナ東部4州の制圧完了のメドは立たない。米英の情報機関によるとロシア軍は人海戦術によって1日1千人を超える死傷者を出し、兵員不足も深刻になっている。

ロシア国内では戦時下の高インフレや国庫の準備金の払底などで、経済面の苦境も深まっている。将来の属国化の可能性を残す条件を勝ち取れれば、プーチン氏も何らかの譲歩を演出して軍や経済の立て直しのために戦争終結に応じる可能性がある。

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