Source: Nikkei Online, 2025年3月2日 6:14
【ロンドン=江渕智弘】スターマー英首相は1日、ウクライナのゼレンスキー大統領とロンドンの首相官邸で会談した。2月28日にトランプ米大統領との会談が決裂したばかりのゼレンスキー氏に「全面的な支援」を伝えた。米国との関係修復などを協議したとみられる。
ゼレンスキー氏の車列が中心部の首相官邸前に到着すると、沿道に詰めかけた人たちが歓声で迎えた。会談の冒頭でスターマー氏は「英国中が全面的に支援している」と語りかけた。ゼレンスキー氏は「あなた方の支援を頼りにしている」と答えた。
スターマー氏は従来「ウクライナに関するウクライナ抜きの交渉はあり得ない」と繰り返しており、ゼレンスキー氏が米側との交渉のテーブルに戻る道などを協議したとみられる。1時間あまりの会談を終え、両氏は笑顔でわかれた。
英独仏やイタリアなど欧州10カ国以上の首脳は2日、ゼレンスキー氏を交えロンドンでウクライナ支援を協議する。スターマー氏は首脳会議にあわせて個別に会談する予定だったが、1日前倒しした。チャールズ国王も2日、ゼレンスキー氏と会談する。
ゼレンスキー氏は2月28日、米ホワイトハウスで会談したトランプ氏やバンス副大統領と激しい口論になり、ウクライナの資源権益に関する協定への署名を見送った。
停戦後に平和維持部隊を派遣する計画の英仏は米国の後ろ盾を求め、2月下旬にフランスのマクロン大統領とスターマー氏がトランプ氏に直接要請した。資源協定は米国がウクライナの安全の保証に関与する前提で、決裂によって見通しが立たなくなった。
米国とウクライナは首脳会談で激しく応酬し、互いへの不信をあらわにしてしまった。両国は関係の修復を急ぎ、公正なウクライナ和平の実現に向けて協議をできるだけ早く再開すべきだ。
米ホワイトハウスで2月28日、報道陣を前に異様な光景が展開された。会談の冒頭、ウクライナのゼレンスキー大統領がバンス米副大統領に「あなたが話す外交とは何なのか」と問いただすと、トランプ米大統領が「この国を侮辱している」などと語気を強め、激しい言葉の投げ合いになった。
双方ともに冷静さを欠いた会談の決裂を深く憂慮する。予定された資源権益に関する協定の署名は中止になった。和平への一歩となるべき合意が暗礁に乗り上げた。
両者の相互不信は根深い。和平の早期実現を掲げるトランプ氏はゼレンスキー氏に終戦の意志があるのか疑っていた。大統領選の実施を求めて協議から同氏を外そうとしたのも疑問が残る。
一方、ゼレンスキー氏はウクライナと欧州の頭越しにロシアのプーチン大統領と取引を始めたトランプ氏に危機感を強めた。28日の会談で公正な和平を訴えようと焦り、米外交のあり方に疑問を呈す不用意な発言をしてしまった。
資源権益の協定に応じる見返りに、ウクライナの安全保障を米国に求めたこと自体は妥当だ。時間をかけてもロシア軍を全面撤退させるには、ウクライナが強い立場で交渉する必要がある。
ロシアによる停戦破りの再攻撃を防ぐためにも、ウクライナを守る強固な安保の枠組みは欠かせない。トランプ氏は欧州に平和維持部隊の派遣を求めているが、圧倒的な軍事力を持つ米国の関与なしには実効性に疑問符がつく。
巨額のウクライナ支援の削減を急ぐトランプ政権は、欧州の安保は欧州が担うべきだとして米国の関与に否定的だ。会談の決裂直後にはウクライナへの武器供給の停止をちらつかせた。こうしたやり方は国際的信用を失いかねない。
ウクライナを全面支援する欧州と米国の関係にも亀裂が広がる恐れがある。民主主義陣営の深刻な不協和音はロシアを利するばかりだ。ロシアは戦場と外交の両面で攻勢を強めようとするだろう。
国際社会はいま、公正な和平を実現できるかどうかの瀬戸際にある。ウクライナと米欧日などの結束が求められる時に、これ以上の足並みの乱れは許されない。