トランプ氏施政方針、ウクライナと再交渉へ 
停戦めぐり

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Source: Nikkei Online, 2025年3月5日 19:30

トランプ氏の施政方針演説は過去最長の100分ほどにおよんだ=AP

【ワシントン=坂口幸裕】トランプ米大統領は4日、連邦議会議事堂で施政方針演説に臨んだ。ウクライナのゼレンスキー大統領から「恒久的な和平へできるだけ早期に交渉のテーブルに着く用意がある」と記した手紙を受け取ったと評価し、ロシアとの停戦に向けた交渉再開に意欲を示した。

トランプ氏とゼレンスキー氏は2月28日に会談した際に激しい口論となり、関係が悪化していた。トランプ氏は3月3日、ウクライナへの軍事支援の一時停止を指示した。ゼレンスキー氏は関係を修復して軍事支援の再開を促す狙いがあるとみられる。

トランプ氏によると、ゼレンスキー氏は手紙で停戦交渉について「ウクライナ人以上に平和を望んでいるものはいない。トランプ氏の強力な指導力のもとでの持続的な和平のために働く準備ができている」とも伝えた。

ウクライナの資源権益の協定案について「あなたの都合の良い時にいつでも署名する用意がある」とも伝達した。トランプ氏はロシアとの停戦後もウクライナへの武器供与などを継続する条件として、レアアース(希土類)などの権益譲渡を求めてきた。

2月28日に署名予定だった資源協定案にはゼレンスキー氏がこだわる安全保障支援の保証は盛り込まれていない。国際法を無視してウクライナを侵略したロシアが軍事態勢を立て直して再侵略を狙うとの強い不信感があり、侵略抑止へ米国による担保を要請してきた。

ゼレンスキー氏の手紙には、米国によるウクライナ支援を念頭に「米国がウクライナの主権と独立を維持するためにどれだけ尽力してくれたかを本当に高く評価している」とも書かれていたと説明した。

謝意を要求してきた米側の意向に沿う意図は明らかだ。早期停戦をめざすトランプ氏は3日、ロシアとの停戦協議を拒めばゼレンスキー氏の進退に発展する可能性に言及するなど圧力をかけた。

トランプ氏も態度を軟化させた。4日の演説ではゼレンスキー氏への批判的な発言を控えたほか「この手紙を送ってくれたことに感謝している」と語った。

米紙ニューヨーク・タイムズは「手紙」について、トランプ氏に送られたのではなくゼレンスキー氏が同趣旨の内容を書き込んだX(旧ツイッター)の投稿を指していると報じた。

トランプ氏は演説で「無意味な戦争を終わらせるときだ」と早期停戦に意欲を示し、ロシアとも対話する意向を重ねて表明した。「我々はロシアとも真剣に話し合い、和平の準備ができているという強いメッセージをもらった。素晴らしくないか」と呼びかけた。

経済政策を巡っては保護主義を通じて国内への製造業回帰をめざす姿勢を鮮明にした。

「相手が関税を課してきたら我々も相手にかける」と述べ、相手国の関税率に応じて貿易障壁を設ける「相互関税」を4月2日に実施すると改めて表明した。

個人所得減税の恒久化に前向きな姿勢を示した。選挙公約に入れた法人税の引き下げや残業代への非課税措置なども改めて触れた。「最優先事項のひとつは、経済を立て直し、労働者世帯に劇的かつ即時の救済をもたらすことだ」と強調した。

バイデン前政権が「インフレの悪夢」を引き起こしたと主張し物価を抑えると説明したが、具体策は乏しかった。

米大統領の施政方針演説は就任1年目に上下両院合同本会議で開く。国内の融和を唱えた1期目の同演説と異なり、野党・民主党との対決姿勢を前面に押し出す攻撃的な姿勢が目立った。

演説時間は100分ほどで、2年目以降に毎年実施する同じ形式の「一般教書演説」を含め過去最長となった。これまでは2000年に実施したクリントン元大統領の88分が最も長かった。

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トランプ氏「ゼレンスキー氏から手紙」 施政方針演説

Source: Nikkei Online, 2025年3月5日 14:30更新

【ワシントン=飛田臨太郎】トランプ米大統領は米東部時間4日夜(日本時間5日午前)、議会で施政方針演説に臨んだ。ウクライナのゼレンスキー大統領から同日、手紙を受けとったと明かした。「恒久的な平和を実現するために、できるだけ早期に交渉のテーブルに着く用意がある」と記されていたと述べた。

トランプ氏は「ウクライナは鉱物資源と安全保障に関する合意について、米国の都合の良い時に署名する用意がある」と語り「彼がこの手紙を送ってくれたことに感謝する」と述べた。

第2次政権の発足後、初めての包括的な政策演説となった。今後4年間に及ぶ政権運営の羅針盤となる。

冒頭「米国が戻ってきた」と呼びかけた。会場にはメラニア夫人や実業家のイーロン・マスク氏らが聴衆としてかけつけた。

与党・共和党の議員がトランプ氏の演説に一斉に拍手で応じる一方、ヤジを飛ばした民主党議員が退場させられる場面があった。

トランプ氏は政権発足後を振り返り「これまでの政権が4年か8年で成し遂げた以上のことを、42日間で実現した」と自賛した。「最優先事項の一つは、経済を立て直し、労働者世帯に劇的かつ即時の救済をもたらすことだ」と強調した。

物価高の解消に向けエネルギー価格の低下に取り組むとし「日本や韓国などと一緒に(米北部州の)アラスカで世界最大級の天然ガスのパイプライン建設に着手している」と触れた。

「今週後半に米国国内で、重要鉱物やレアアース(希土類)の生産を劇的に拡大するための歴史的な行動を起こす」と明らかにした。

保護主義的な政策を通じて、米国内に自動車企業などの生産拠点を戻させる方針を改めて説明した。「米国内で製造していない場合、トランプ政権では関税を支払うことになり、かなり高額になる場合がある」と説いた。

「私たちはただ、自分たちのビジネスと国民を守りたいだけだ。米国で生産すれば関税を払わなくて済むため、彼ら(外国の製造業)はやって来るだろう」「関税は米国の魂を守る」とも力説した。

貿易相手国が設ける関税以外の貿易障壁も問題視し、対象国に向け「我々も壁を作り、彼らを米国市場から閉め出す」と訴えた。「米国は地球上のほぼすべての国々から何十年にもわたって搾取されてきたが、もはや許さない」と主張した。

米大統領の施政方針演説は就任1年目に上下両院合同本会議で開く。テレビの視聴者が多い「プライムタイム」と呼ばれる夜に実施した。

大統領職と上下両院の多数派を共和党が占める「トリプルレッド」の状態にあるものの、議会の与野党の議席は僅差にとどまる。予算や税制は議会が決定権を持つ。

トランプ氏は大統領選の公約に掲げた「トランプ減税」(個人所得減税)の恒久化のほか、チップ収入や社会保障給付、残業代への免税措置の実現を議員に求めた。民主党議員に対し、減税案に賛成しなければ「あなたたちが再び当選することはないだろう」と脅した。

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トランプ氏、ゼレンスキー氏の手紙「感謝」 
演説ポイント


トランプ米大統領は冒頭で「米国が戻ってきた」と力強く宣言した=AP

トランプ米大統領は4日夜(日本時間5日午前)、議会上下両院の合同本会議で施政方針演説に臨んだ。外交や経済、内政の政策について何を語ったのか。演説のポイントをまとめた。

【関税】4月2日の相互関税発動を再表明

4月2日に相互関税を発動するとあらためて表明し「諸外国が関税を課せば、我々も課す。税金を課せば、我々も課す。我々を市場から排除する非関税障壁を設ければ、こちらも米国市場から相手を排除するために障壁を設ける」と対抗措置を強調した。

「何兆ドルもの関税収入を取り込み、かつてない規模の新たな雇用創出につなげる」と語った。「関税は米国を再び裕福に、偉大にするためのものだ。すぐにそうなる。多少の混乱はあるだろうが、大丈夫だ」と関税による影響は一時的なものだと強調した。

4日に25%の追加関税を発動したメキシコとの関係を巡っては、同国が麻薬密売などの罪で服役していた受刑者29人を米国に引き渡した実績を誇った。一方「メキシコとカナダには、これまで以上に多くのことをやってもらう必要があるし、米国に流入する(合成麻薬)フェンタニルと麻薬を止めなければならない」とも述べた。

欧州諸国や中国、ブラジル、インド、メキシコ、カナダ、韓国を名指しし「我々が課すよりもはるかに高い関税を我々にかけている」と批判。特に韓国には米国に平均4倍の関税を課しているとし「我々は軍事面などで韓国を支援している」と不満を示した。

【ウクライナ情勢】ゼレンスキー氏から4日に手紙「感謝する」

トランプ氏はウクライナのゼレンスキー大統領から手紙を4日に受け取ったと明らかにし「手紙を送ってくれたことに感謝する」と述べた。トランプ氏によると、ゼレンスキー氏は恒久的な平和の実現に向けトランプ氏のリーダーシップの下で働き、米国と資源権益の協定案にいつでも署名できる用意があると記した。

ロシアによる侵略が続くウクライナ情勢を巡っては「ウクライナにおける野蛮な紛争を終わらせるために精力的に努力している」と強調した。

続けて、「この残忍な紛争では、何百万人ものウクライナ人とロシア人が不必要に殺傷され、終わりが見えない。米国はウクライナの防衛を支援するために数千億ドルを送ってきた。一方、欧州は悲しいことに、彼らがウクライナの防衛のために費やした金額よりも、ロシアから石油とガスを購入するために費やした金額の方がはるかに多い」と批判した。

【政府効率化省】「数千億ドルもの不正を発見」 マスク氏を称賛

トランプ氏は、新設した政府効率化省(DOGE)について「数千億ドルにも上る不正を発見した」と主張し、成果を誇示した。

議場内にいたDOGEを率いる起業家のイーロン・マスク氏を紹介し「ありがとう、イーロン。彼は一生懸命働いている。この仕事をする必要はなかった。我々は感謝している」と称賛した。共和議員が立ち上がって拍手を送った。

議場には起業家のイーロン・マスク氏(中央)などが集った=ロイター

【経済対策】パイプライン開発「日韓に数兆ドル投資を望む」

トランプ氏は「前政権から経済の破滅的な状況とインフレの悪夢を引き継いだ」とバイデン前政権の経済政策を批判した。

「大統領として、このダメージを修復するために日々闘っている」と述べた。特に卵の価格を下げるために努力していると強調した。

産業振興に関しては、「我々の米国第一政策により、この数週間で1兆7000億ドルの新規投資があった」としてソフトバンクグループや米オープンAI、オラクル、アップル、台湾積体電路製造(TSMC)による投資を挙げた。

このほか、ホワイトハウス内に「造船局」を新設し、米国に造船産業を戻すための税制上の優遇措置を導入すると発表した。

トランプ氏はエネルギー開発を巡り「わが政権はアラスカで巨大な天然ガスパイプラインの建設に取り組んでいる」と語り、日本や韓国などが数兆ドル規模を投資してパートナーになることを望んでいると指摘した。

今週、米国での重要鉱物とレアアース(希土類)の生産を大幅に拡大する「歴史的な措置」を発表すると表明した。

議会の共和党議員からはトランプ氏の発言の合間ごとに拍手が送られた=AP

【移民問題・多様性】不法越境者数は過去最少と強調

政権が最優先課題に掲げる不法移民対策に関しては「就任宣誓後の数時間内に、私は南部国境での国家緊急事態を宣言し、米国への侵略を撃退するために米軍と国境警備隊を派遣した。その結果、先月の不法越境者数は過去最少を記録した」と成果を強調した。

一方で「素晴らしい、勤勉な、雇用を創出する人々を招き入れる」と合法移民の受け入れを表明した。500万ドル以上を投資した外国人投資家を対象とする新制度「トランプ・ゴールドカード」に言及した。

トランプ氏はDEI(多様性、公平性、包摂性)を巡り、バイデン前政権を念頭に批判。「連邦政府全体、そして民間企業や軍隊に至るまで、いわゆるDEI政策の専制政治を終わらせた」と持論を展開した。

トランプ氏は連邦議会に対し「子供の『性の変更(性適合治療)』を永久に禁止し、犯罪とする法案を可決してほしい」と訴えた。

バンス副大統領(奥)も真剣なまなざしで演説に聴き入った=ロイター

【領土問題】グリーンランド市民に「米国に歓迎する」

トランプ氏はかねて獲得への意欲を示すデンマーク自治領グリーンランドを巡り、米国などの安全保障上必要だとの認識を改めて示した。グリーンランド市民に対し「あなた方が自らの将来を決定する権利を強く支持する。あなた方が選択するのであれば、私たちはあなた方を米国に歓迎する」と呼びかけた。

トランプ氏はパナマ運河の運営権について「取り戻すつもりで、すでに取り組みを始めている」と語った。同運河を巡っては、世界最大の資産運用会社、米ブラックロック率いる投資家連合が4日に港湾事業を香港の複合企業、長江和記実業(CKハチソンホールディングス)から買収することで合意した。トランプ氏は中国が同運河の航路を実効支配しているとみなしている。

最後にトランプ氏は「米国民の皆さん、素晴らしい将来へ備えてほしい。米国の『黄金時代』は始まったばかりだ。これまでにないような時代になる」と、1時間半を超えた演説を締めくくった。

(ワシントン=芦塚智子)

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