中国レアアース規制、世界の車生産に波及
 フォードは工場一時停止

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Source: Nikkei Online, 2025年6月5日 6:32更新

中国のレアアース輸出規制が自動車生産に波及し始めた(フォードの米国販売車)

【ニューヨーク=川上梓】中国が米国との貿易戦争に備えて進めるレアアース(希土類)の輸出規制が世界の自動車生産に影響をおよぼし始めた。レアアースは電気自動車(EV)などの生産に欠かせず、中国が世界の生産量の7割を占める。部品不足から米フォード・モーターがすでに工場を一時停止し、欧州でも悪影響が出ている。

フォード、米工場を一時停止 

中国は貿易交渉で揺さぶりをかけている。フォードは5月末にイリノイ州シカゴにある工場で多目的スポーツ車(SUV)「エクスプローラー」の生産を一時停止した。6月に再開したものの、レアアースを使う部品不足が背景という。米中間の交渉に進展がなけば世界の供給網の混乱が続く。

レアアースはEVやハイブリッド車(HV)に使うモーターなどに欠かせない資源だ。中国政府は4月、米国による相互関税への報復措置の一環として7種のレアアースの輸出を制限した。中国からの輸出許可が遅れ、調達する部品メーカーの生産に影響が出た。

フォードのシェリー・ハウス最高財務責任者(CFO)は4日の投資家イベントで「中国から輸出されるレアアースは輸出規制をパスする必要があり、行政手続きが増えている。長期化すれば代替部品・方法を探さなければならない」と話した。

欧州では部品生産停止 

中国による輸出規制は欧州の自動車生産にも波及する可能性がある(メルセデス・ベンツの工場)=ロイター

中国の輸出規制の影響は米国以外にも影響が広がる。欧州自動車部品工業会(CLEPA)は4日、中国政府のレアアースの輸出規制で部品メーカーの工場が操業停止に追い込まれたと明らかにした。操業を停止したメーカーは明らかにしていない。

CLEPAによると中国が輸出規制を開始した4月以降、欧州の車部品メーカーから数百件の(中国からの)輸出許可申請が出たが、約25%しか認められていないという。CLEPAは状況が変わらなければ工場や生産ラインの操業停止が相次ぐとしている。

米コンサルティング会社アリックス・パートナーズは中国の輸出許可が再開されない場合、「欧州や米国の一次部品メーカーのレアアースを使った部品の在庫は6月中旬までに枯渇する可能性がある」と指摘している。

日本勢も警戒強める

日本の自動車大手も危機感を募らせる。トヨタ自動車日産自動車などが加盟する米国自動車イノベーション協会(AAI)は5月9日、米国自動車部品工業会と共同でトランプ政権に書簡を送付。中国によるレアアースの輸出規制を巡り「米政権の対応がなければ今後数週間以内に自動車の生産が止まる可能性がある」と警鐘を鳴らした。

現時点でトヨタやホンダなどの米国の完成車工場の生産は止まっていないが、今後輸出規制が長期化すれば影響が出る。ホンダの米国法人は「(レアアースを使う)部品メーカーと在庫確保などで協議を続ける」と話している。 

米国ではEV普及が遅れる中で、日系大手はHVの生産拡大に動いている。レアアース不足は今後、日本車メーカーのHV生産にも影響を与える可能性がある。

米国や欧州、代替調達を模索

中国は過去もレアアースの輸出規制に動いた(写真は中国のレアアース鉱山)=ロイター

各国は中国の輸出規制への対応を進める。ロイター通信は3日、トランプ米大統領が重要鉱物の生産を促するため、国家安全保障上の緊急事態の場合に大統領に認められた権限を利用する手続きを進めていると報じた。

欧州連合(EU)は4日、「重要原材料法(CRMA)」に基づくEU域外での13件の重要鉱物に関連する新規プロジェクトを発表した。金属や鉱物の供給体制を強化することも目指す。新規案件のうち10件はEV電池に使う重要鉱物に関連したものだ。

中国は過去にもレアアースの輸出規制で揺さぶりをかけてきた。各国は輸出規制を見据えて代替調達に動いてきたが、採掘や製錬、磁石製造まで全工程を寡占する中国以外での供給網構築は短期的には進んでいない。

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