Source: Nikkei Online, 2025年8月17日 20:52更新
【ウィーン=金子夏樹】ウクライナが和平合意の条件として米欧に求めてきた「安全の保証」を確約する議論が前進している。トランプ米大統領は15日の米ロ首脳会談で、米国が「安全の保証」に関与する立場を明らかにした。
①米国などがウクライナの「安全の保証」を確保
②ロシアは停戦し、再攻撃しないと文書で確約
③ウクライナは東部2州を放棄
――といった案が米ロ会談で出たようだ。
会談前、領土面での譲歩についてウクライナや欧州諸国が反対していたが、実際には協議されたようだ。
ウクライナのゼレンスキー大統領は18日にワシントンでトランプ氏と会い、和平実現に向けた条件を調整する予定。英仏独伊や欧州連合(EU)の欧州委員会などの首脳は17日、同席すると相次ぎ公表した。
トランプ氏はロシアのプーチン大統領との会談後、ゼレンスキー氏や欧州各国の首脳と電話協議した。和平合意後にウクライナの安全を保証する案についても説明したという。
イタリアのメローニ首相は、トランプ氏が北大西洋条約機構(NATO)加盟国の集団防衛を定めた北大西洋条約第5条に近いアイデアを提起したと明らかにした。同5条は1つの加盟国への軍事攻撃を加盟国全体への攻撃と見なし、加盟国は攻撃された国の防衛義務を負う。
メローニ氏は声明で「ウクライナが再び侵略された場合、米国を含むパートナー諸国が介入し、支援することが議論の入り口だ」と記した。
ウクライナは2014年から15年にかけてのウクライナ東部紛争で停戦条件を定めた「ミンスク合意」に署名したが、停戦監視が機能せず、ロシアの侵略につながった経緯がある。ウクライナはロシアによる再侵略に備え、欧米から「安全の保証」を確保する必要があると訴えてきた。
トランプ氏は就任以来、ウクライナの長期的な安全保障における米国の関与に消極的で、欧州に任せる立場をとってきた。ここにきて立場を見直し、米国も軍事的に関与することに前向きな発言を続けている。
15日の米ロ会談後、米FOXニュースで米国が欧州とともにウクライナに「安全の保証」を供与する意志を示し、プーチン氏との会談でも議題にしたと指摘した。
ウクライナや欧州首脳は米国の方針転換を歓迎する。ただ、米国がウクライナの「安全の保証」に関与する見返りに、ロシアに譲歩を迫られることを懸念する見方もある。
プーチン氏は首脳会談で、ウクライナの「安全の保証」について協議する用意があると発言した。保証国のひとつとして中国を挙げたという。米ニュースサイトのアクシオスが報じた。
このほか、プーチン氏はウクライナ東部の割譲を停戦の条件として提示したようだ。
英フィナンシャル・タイムズなどによると、プーチン氏は会談でウクライナ軍の東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)からの全面撤退と割譲を要求した。引き換えに南部2州は現状の前線で戦闘を停止し、新たな攻撃をしないと文書で確約すると主張した。
ロシア軍はルハンスク州のほぼ全域を占領したが、ドネツク州では4分の3ほどにとどまる。占領していない地域の割譲も要求しており、ロシアに有利な内容とみられる。
トランプ氏は米ロ会談後、ゼレンスキー氏に領土割譲などを含むプーチン氏の提案を伝えたが、ゼレンスキー氏は拒絶したという。
トランプ氏はゼレンスキー氏に歩み寄りを求めている。FOXのインタビューで和平合意の成否はゼレンスキー氏にかかっているとしたうえで、「ロシアと取引をすべきだ」と訴えた。