デンマーク、米臨時大使を召喚 
グリーンランドで世論工作か

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Source: Nikkei Online, 2025年8月17日 20:52更新

トランプ米大統領はかねてグリーンランドの購入に意欲を示してきた=AP

【ブリュッセル=辻隆史】デンマーク外務省は27日、自治領グリーンランドで米国籍の男性3人が世論工作をしかけようとしていたとの報道を受け、米国の駐コペンハーゲン臨時代理大使を召喚したと発表した。グリーンランドにはレアアース(希土類)など豊富な資源が眠り、軍事面の要衝としても注目される。

トランプ米大統領はかねてグリーンランドの購入に意欲を示してきた。デンマーク公共放送のDRは、トランプ氏や米政権とつながりのある3人がグリーンランドで秘密裏に工作活動をしていたと報じた。

DRによると「少なくとも3人」の米国人がグリーンランドの首都にあたるヌークを訪問。現地でデンマークからの独立や米国による領有に賛成する市民のリストを作成しようとしていた。トランプ氏の購入案に反対する市民の情報も集めていたようだ。

デンマークとの分断をあおり、米国の領有に前向きな世論を形成しようともくろんだ可能性がある。

米国籍の男性の1人はグリーンランドの市民に対し、米国のメディアでデンマークに対する悪印象を広めるのに使える事例を挙げるよう求めたという。

グリーンランドは1721年から長期にわたりデンマークの植民地だった。近年強く批判される、デンマークによる過去の強制避妊政策なども話題に上ったとしている。

DRは取材源への配慮から、この男性の素性を明らかにしていない。過去に公の場でトランプ氏と何度も対面していた人物で、最近は米国の安全保障政策に影響力を行使できる役職に就いたと説明した。

別の米国人男性はヌーク政財界の主要な人物との人脈を築こうとしていた。

デンマーク政府は報道を受け、米外交官を呼び出した。ラスムセン外相は地元メディアに対し「内政干渉は受け入れられない」と強調した。

デンマークは米国による世論工作への警戒を強めていた。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは5月、複数の米政府高官が米中央情報局(CIA)などの情報機関の責任者に対し、グリーンランドの独立運動や米国の資源開発に対する現地の世論を探るよう指示する文書を出したと報じた。文書では、グリーンランド領有に向けて協力を期待できる人物の特定も求めていた。

デンマーク政府は今回明るみに出た3人が、トランプ政権とどこまで連携しているのか慎重に評価している。今後はヌークでの外国人の活動をより監視する方針だ。

デンマークの外交官の1人は日本経済新聞の取材に「仮にトランプ政権が関与しているとすれば、やっていることはロシアと同じだ」と語った。

ロシアは欧州を中心に、域内の分断や反ウクライナをあおる言説を戦略的に拡散させている。インターネット上の工作だけでなく、各国で影響力のある人物にじかに接触し自らに有利な世論を作り出そうとする。

トランプ氏の購入発言を巡り、グリーンランドでは反発が広がった。米国が北大西洋条約機構(NATO)の同盟国であるデンマークの領土で工作活動をしていた疑いが強まれば、欧米間の対立の新たな火種となる懸念がある。

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