Source: Nikkei Online, 2025年12月12日 11:30
人工知能(AI)関連の十兆円規模の巨額投資に世界が注目している。その成否は、人工汎用知能(AGI)や人工超知能(ASI)にいつ到達するかにかかっている、と多くの専門家は解説する。壮大な技術論や近未来論とは別に、AIをビジネスモデルとして捉えてみたい。
まず、競争条件。チャットGPT、クロード、ジェミニ、コパイロットなどが覇権を争う構図が語られがちだが、AI市場には独占を生みやすいネットワーク外部性はそれほど大きくない。ウィンドウズOSやグーグル検索のように需要が一社に集中する状況は想定しにくい。ブラウザーや業務ソフトにひもづく囲い込みが進む余地はあるものの、複数のAIを併用する利点が大きい限り、複数社が競い合う市場構造はむしろ長期化すると見てよい。
次に損益分岐点。AIには学習と推論があり、単純化すれば学習は巨額の固定費、推論は利用に応じた変動費になる。ネットビジネスは一般に変動費の低さと規模拡大によって収益性を高めるが、AIの推論で大規模モデルを使い続けるかぎり、変動費は思いのほか下がらない。固定費の回収が想定通りに進まないリスクは相応に大きい。
AIビジネスを黒字化し巨額投資を回収する道は険しい。「言語モデルだけでなく、動画生成、ロボティクスなどAIが生み出す価値は膨大で、ビジネスモデル上の懸念などさまつだ」との反論もあろう。しかし価値の創造とビジネス上の利益獲得は別だ。
投資規模ではかなわない日本企業にも闘う余地はある。日本語特化の実装モデルは大きな参入余地がある。サカナAI、ELYZAなどスタートアップからNTTまで推論モデルの小型化、省エネ化などで世界標準を目指す動きもある。経済安全保障面からも日本勢の奮起に期待したい。
(事業構想大学院大学 特任教授 石井 歓)