グリーンランド、重要鉱物「最後のフロンティア」
 極寒の鉱山ルポ

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Source: Nikkei Online, 2025年12月14日 5:00

グリーンランドの長石鉱山。付近にはトナカイやホッキョクギツネなど野生動物も多く生息する

日本の官民視察団が11月中旬、デンマーク領グリーンランドを初めて訪れた。レアアース(希土類)など豊富な鉱物資源が眠り、米国や中国など世界の大国が注目する地政学的要衝の潜在力を見極めるためだ。

同月17日、極寒の鉱山視察に記者が同行した。訪れたのはルミナ・サステナブル・マテリアルズ社が開発する小規模鉱山「ホワイトマウンテン」だ。

良質の長石が採れ、ガラス製品やセメント製造用途で米欧に輸出する。グリーンランドで重要鉱物の採掘はまだ本格化していないため、視察団は長石鉱山で開発環境を確かめた。

視察には経済産業省のほか、日本貿易振興機構(ジェトロ)、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、日本貿易保険(NEXI)の関係者、商社や素材メーカーの資源開発担当者ら計16人が参加した。

まずグリーンランド南西部の中心都市ヌークから飛行機で一時間弱北上し、北極圏の街カンゲルルススークに向かう。さらに空港からでこぼこ道をバスで30分、小さな港に着く。水面にはすでに氷が浮かんでいた。そこから小型船でフィヨルドに挟まれた湾を約1時間、南西に進んで鉱山のある港にたどり着いた。

グリーンランドの鉱山には港から船で向かう。すでに水面は凍結しかけている

氷点下10度。12月にはさらに低下するという。ホワイトマウンテンの露天掘りの採掘現場は防寒着を身につけても寒い。すぐ近くに何匹ものトナカイやホッキョクギツネがいる。

ショベルカーで削り取った大きな岩石を砕き、余分なものを分離した後に倉庫に運ぶ。「船着き場は冬場はどうなるんですか」。視察団の最大の疑問点にルミナ社幹部は「湾が凍結すると4〜5カ月は船で搬出できなくなる」と答えた。

真冬も操業を続けるが、船は使えないため、従業員の交代にはヘリコプターを使う。吹雪によるホワイトアウトも起きる過酷な労働環境だ。人員確保も容易でないと説明を受ける。万が一のホッキョクグマの襲来に備え、宿舎に護身用の銃を1丁備える。

温暖化の影響なのか、20年ほど前に比べると湾の凍結期間は短くなり、水面を覆う氷も薄くなってきたという。「それでも一番のネックはやはり港の凍結ですね。輸出コストは上昇する」。企業からの参加者は白い息を吐きながら漏らす。

グリーンランドの長石鉱山は、露天掘りで採掘する

米地質調査所によると、グリーンランドのレアアース埋蔵量は世界8位。ジスプロシウムなど希少性の高い重希土類を多く含む。電気自動車(EV)のバッテリーに使うグラファイトなど他の重要鉱物も多く眠るとされる。

ルミナ社は別の鉱区での重要鉱物の採掘も視野に入れる。

同社マネージング・ディレクターのイェンセン氏は視察中に「ぜひ日本にも参画してほしい」と語った。中国企業の参加は「ノー」と一蹴した。19日のグリーンランド自治政府のニールセン首相のインタビューでも中国への警戒感は明確だった。

グリーンランドに基地を置く米国をどう思うかとイェンセン氏に尋ねると、複雑な表情をみせた。トランプ米大統領はグリーンランドの「購入」に意欲を示す。「今までと同様、友好的にビジネスをしたい。さきほどの港も昔、米軍が整備したものだ」

鉱山のふもとにある従業員の宿舎で昼食をとる。クジラ肉のシチューをほお張りながら参加者から感想を聞く。経産省製造産業局の山口雄三・鉱物課長は「来てよかった。最後のフロンティアの潜在力はある」と話す。鉱山が港に近い点も評価した。

グリーンランドの鉱山を視察する経済産業省の山口雄三鉱物課長㊧(11月17日)=ジェトロニューヨーク提供

政府系機関で民間の資源開発を支援してきたJOGMECの下堀友数・ロンドン所長は視察で有益な知見を得られたと総括する。ヌークでは自治政府の開発担当者とも面会した。

下堀氏は多くの鉱種が存在することに加え、開発時の地元などとの調整を自治政府がワンストップで担う仕組みを評価した。JOGMECは2026年にも、資源量を含むより詳細なデータを得るべく追加の視察を検討する。

企業からは「ヌークでのオフィス設置はあり得るレベル」「なかなかイメージがわかなかったが、手が届かないものではないと分かった」と肯定的な意見が出た。

一方で「港が一定期間使えず、需要地が遠ければコストも上がる」「インフラの未整備は大きな課題」といった指摘もあった。政府の明確な支援を求める声も聞かれた。

政府庁舎でインタビューに答えるグリーンランドのニールセン首相(19日、ヌーク)

ニールセン氏は訪日に意欲を示しており、日本政府はグリーンランドとの包括的な経済協力策の検討に入る。政府内には欧州連合(EU)や米国と組んで開発枠組みをつくれないか模索する動きもある。首相官邸関係者も関心を示す。

グリーンランドではすでに欧州企業が開発に向けた準備を進める。視察を機に、日本の官民がどれだけ中長期的な関与に踏み込めるか。地政学的な観点からの議論も欠かせない。

(グリーンランド南西部カンゲルルススアークで、辻隆史)


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