Nikkei Online, 2023年9月20日 7:42更新
【ニューヨーク=佐藤璃子、朝田賢治】国連総会で19日、各国首脳による一般討論演説が始まった。ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアによる侵攻開始以降、初めて登壇した。「ロシアはあらゆる物を武器として利用している」として、新興国などを苦しめる食料高騰や気候変動対策の遅れの元凶はロシアにあると指摘。「侵略者を倒すため団結を」と呼びかけた。
「団結すれば、戦争を防ぐことができる」。世界の首脳を前に、ゼレンスキー氏はこう切り出し、ロシアに対抗するための団結と、侵攻によっていかに世界が影響を受けているかを訴えた。
侵攻から1年半がたち、各国には支援への疲れも目立つ。再び世界の目をウクライナに向け、ロシアへの包囲網を固め直す意思を示した。
「ロシアは食料価格を武器として利用している。アフリカから東南アジアに至るまで影響を被っている」「他国の発電所を攻撃することで、汚い爆弾に変えている」「政府の下で子どもの大量誘拐をしている。これは明らかに大量虐殺だ」――。ゼレンスキー氏は食料やエネルギー、原子力発電所、組織的な子どもの誘拐がロシアによって武器として使われていると非難した。
昨年のビデオ演説では、ロシアによる犯罪の告発と処罰を求めるメッセージから始めた。今回はそれと異なり、2国間の戦いではなく世界各国とロシアとの戦いだと強調し、支援継続を求めた。
背景にあるのは国際社会の間で広がる厭戦(えんせん)ムードへの警戒感だ。新興国や発展途上国の間では、長引く侵攻の影響で食料やエネルギー価格が上昇して自国の経済環境も苦しく、早期の和平を望む声も少なくない。
こうした見方に対し、ゼレンスキー氏は自身が提唱するロシア軍撤退などを盛り込んだ和平案「平和の公式」について、140以上の国や機関が全面的か部分的に支持していると主張。20日に開く安全保障理事会に出席し、国連憲章の下での和平案を探る方針を示した。
各国の賛同を得やすい環境問題も引き合いに出した。「人類が気候変動政策の目標を達成できていないにもかかわらず、モスクワが大規模な戦争を始め、数万の人々を殺害した」とも述べた。モロッコでの地震やリビアでの洪水を念頭に、気候変動や災害への対応がロシアによって遅延しかねないと批判した。
一方的に支援を要求しているとの見方を払拭し、ウクライナへの支援が各国の利益につながるとの印象を広げようとの狙いも垣間見える。黒海穀物合意に参加した国々の指導者への感謝の言葉を述べた場面では、出席者らからの拍手に包まれた。
演説の間、ロシアはポリャンスキー国連次席大使が着席していたが、下を向いて携帯電話をのぞくシーンが目に付いた。米国はトーマスグリーンフィールド国連大使が聴いた。約15分間の演説終了後は拍手が起こったが、昨年のように出席者が総立ちとなって敬意を表する場面はみられなかった。
19日の総会初日は、国王や大統領など各国元首が登壇した。自身の演説のタイミングに合わせて会場入りする首脳も多いなか、ゼレンスキー氏は開会時間の午前9時前に着席し、各国の演説に傾聴した。
一般討論演説のトップバッターとなったブラジルのルラ大統領は、安保理の機能不全を指摘し「ウクライナへの侵攻は、我々が集団として無能であることを露呈した」と批判を強めた。
ウクライナ侵攻を巡っては、支援強化を求める西側諸国と、食料・エネルギー危機で不満が高まる新興国との間で温度差が広がっている。「対話に基づかない解決策は長続きしない」と改めて和平への貢献を求める姿勢を示した。
ブラジルのルラ大統領に次ぎ2番手で登壇したバイデン米大統領は「この総会は、2年連続でロシアが隣国ウクライナに対して仕掛けた違法な戦争の影に覆われている」と発言。「ロシアだけが平和を妨害している。ウクライナの屈服、領土、子どもたちを、平和の代償として要求している」とロシアを痛烈に批判した。
「米国は世界中の同盟国やパートナーとともに、主権と領土、そして自由を守る勇敢なウクライナの人々とともに立ち向かい続ける」。こうしたバイデン氏の発言に、各国の首脳からは拍手が沸き起こった。一方で、武器供与などの具体的な支援継続を求める発言はなかった。