ラグビー日本、力尽き8強ならず またも終盤が鬼門に

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Nikkei Online, 2023年10月9日 5:00

アルゼンチンに敗れて1次リーグ敗退が決まり、肩を落とす日本代表の選手たち(8日)=ロイター

追い掛けても追い掛けても逃げ水のように遠のいていく。日本がトライを取るたびに、アルゼンチンもスコアを重ねる。その影すら見えなくなったのが、後半28分だった。

SO松田のハイパントがやや長かった。相手の反撃が始まる。タックルのミスも出て、日本は5本目のトライを奪われた。残り約10分、ワンプレーで逆転できない9点差は重い。「簡単なトライを与えてチームが焦ってしまった」と姫野主将。日本の勝利と8強入りは消えた。

目指すラグビーができなかったわけではない。前半の2トライ目は今の代表の粋を集めたものだった。安定したスクラムからボールを出す。パワフルなWTBフィフィタをおとりに使って左に展開。ラックを作った後、外に回り込んでもらったフィフィタが突破し、好フォローのSH斎藤がフィニッシュする。FWの奮闘をバックスが準備通りのプレーでスコアに変えた。

ファカタバの美技や、日本らしいサインプレーで決めたナイカブラのトライもあった。防御ラインを破った回数は今大会のチーム最多タイとなる7度。W杯初出場のフィフィタの先発抜てきや、ナイカブラの途中投入というジョセフヘッドコーチ(HC)の采配も当たった。「スクラムは良かった。ラインアウトも途中で修正できた」。リーチが言うようにセットプレーも互角以上。勝機は十分にあった。

後半、トライを奪うナイカブラ。日本らしいサインプレーで決めた=AP

ただ、アルゼンチンの方がラグビーの精度が高かった。得意のハイボールを中盤から連発。走路を邪魔する日本の選手をものともせず、空中戦を制して好機をつくった。モールを押してからの攻撃も効いた。何より、取られた後に取り返す試合運びや、チャンスを仕留める力が一枚上手だった。日本もゴール前での判断の誤りやミスがなければ、連続トライで逆転できたはずだが……。

追う展開が続くまま、最後の15分に失速した。疲れが響き、スクラムで反則を取られる。攻めても接点で球を出すのに精いっぱいとなり、陣形を整えられない。個で突進してはボールを失う。精度の欠けたキックでピンチを招く。今大会で苦しんできたこの時間帯がまたも鬼門となり、致命傷となる5本目の失トライにつながった。

ボールを持って突進するアルゼンチンのマテオ・カレーラス。
後半28分のダメ押しともいえるトライを含め、この日3トライを奪った=AP

「欲を言えばタフな試合をもっとやりたかった」とリーチ。「パンデミックの影響はあった」とジョセフHCも言う。8強入りした前回大会の後、新型コロナウイルス禍で1年半活動できなかった。格闘技の要素を持つラグビーでは強豪と体をぶつける機会が何より大事。終盤のガス欠の一因となったかもしれない。

アウェーの大会で初の8強入りはならなかった。その距離が紙一重なのか、大河の隔たりなのか、選手自身も考え始めたところ。ただ、多くのファンが応援した大一番で、今の日本が持つものは見せた。4度目のW杯を終えたリーチが、ジャージーを着替える間もなくバスに乗り込む間際に言った。「アルゼンチンは強かった。チームも僕も、出し切りました」

(ナント〈フランス〉=谷口誠)